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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第7章:情熱で始まる2学期
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89.魚沼さんの気持ち

想定外に裏庭が整備されていたので話が始める前から脱線してしまったけど、改めて俺達は東屋のベンチに座って昼飯を広げつつ本題へと移ることにした。

あ、庭石先輩は花壇の方に戻って行った。あの人もここの学生で今はただの昼休みのはずなんだけど、お昼食べないのかな。

まあ兎も角。


「ハルと魚沼さんに夏休み中に何があったのかは軽くハルから聞いた。

そこで改めて魚沼さんに確認なんだけど、今後ハルともっと仲良くなりたい?

もっと端的に言えば、ハルの事が好き?」

「え、あ、その」

「ちょっと一会くん。それは直球過ぎじゃないかな」


俺の言葉に魚沼さんが顔を赤くして俯き、隣に居る姫乃が俺を窘める。

だけど俺も発言を撤回する気はない。


「大事な事だから。

もし魚沼さんが今の関係のままで良くて、高校を卒業した後もたまに連絡を取り合ってお茶したり遊びに行く程度の気の合うお友達で居たいだけなら俺からこれ以上言う事は無い。

ハルには残念だけど後でやけ食いでも何でも付き合うさ。

でも今よりハルとの関係を前進させたいのであれば妹さんの件は避けては通れない。

そこで大事になるのが魚沼さんの気持ちなんだ」

「私の、気持ち」


しみじみと俺の言葉を繰り返す魚沼さん。

ていうかこの反応だけ見ても好きだって告白しているように見えるのは俺だけか?

いや、姫乃も青葉さんも顔を赤くしてドキドキしてるところを見ると間違いないか。

庸一ですら娘の初恋を応援する父親のような顔になってるし。ってそれもどうなんだか。

ともかく、訥々と話し始めた魚沼さんの言葉に耳を傾けた。


「私は、その、小さい頃から引っ込み思案で暗くて友達も出来なくて。

この学園に来たら少しは変われるかなって、思ってたけどやっぱりダメで。

当然ですよね。

だってそれまでの私は助けてって泣いてばかりで自分から変わろうとしてなかったんですから」


その言葉に初めて彼女に出会った頃を思い浮かべた。

あの時の彼女は、例えるなら濁った小さな池の中で、そこが自分の居場所なんだって俯いて泳いでいる小さな魚だった。

すぐ横にある水路に飛び出せば綺麗な小川に出れたかもしれないのに、それすら怖くて動けずにただただ美味しくもない水の中を漂っていた。


「そんな私に手を差し伸べてくれたのが春明君でした。

私が傷つかない様にそっと出されたその手を見て私は思ったんです。

この人はとてもやさしい人なんだなって。

でも同時に、ちょっぴり臆病なところが私に似ていて、それなのに困難から逃げずに歯を食いしばって立ち向かう強さがあったんです。

もしかしたら彼の手を取って立ち上がったら私も強くなれるかもしれないって思って、そしたら村基さん達を紹介されて、本当に私の人生は一変しました。

振り返ればほんのちょっとの努力と勇気を振り絞れば良かったんですよね。

それを気付かせてくれたのが春明君で、だから本当に感謝しているんです。

それからも春明君は何度も私を勇気づけてくれました」


そう言って笑う彼女は、本当に以前とは別人のように強く美しく見えた。

今ならいじめ程度なら自力で撥ね退けることが出来るだろう。


「だから私は、春明君の妹さんが何と言おうと彼から離れるつもりはありません」

「よし、良く言った」


夏休み前の彼女ともまた違った逞しさのようなものも感じるので、もしかしたら俺達が思っている以上に夏休み中に色々あって2人とも成長していたのかもしれないな。

そうじゃなかったらあの内気だった魚沼さんが男子の家に行きたいって言い出す事も無かったはずだ。

そしてこれだけの覚悟があるならきっと大丈夫だ。


「じゃあ作戦を伝えるぞ。

と言っても橘音ちゃん相手には直球勝負が一番なんだけどな」

「「直球勝負?」」


首を傾げる皆に俺の考えを伝える。

それを聞いて確かになと頷くのは橘音ちゃんを知ってる男性陣。

逆にあの子の事を知らない女性陣は、いや女性陣もどことなく納得してるっぽい。

会ったことは無くても同じ女子として共感できる部分があったのかもな。

なら後は場を整えるだけであれこれ俺が何かする必要はないかもしれない。

いずれにせよ最後は魚沼さん次第ってのは変わらないし。



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