84.閑話~兄妹~
いつもありがとうございます。
今回の閑話はちょっと毛色を変えて彼の話です。
~~ ○○ Side ~~
小学校の頃、夏休みは嫌いだった。
暑いし蚊は多いし夜はバイクが煩いし、あと暑いし。
唯一の清涼剤とも言えるのが僕の可愛い妹だ。
「お兄ぃ~~暑い~~、アイスたべた~い」
ソファにでろんと横たわりながらそう言う妹はちょっとお馬鹿っぽいけど、実際には外ではお行儀よくしているし猫を被るのは上手だ。
だからあれは家族や気を許した相手にしかみせない姿とも言える。
まったく仕方ない奴だ。
「ほら、おへそ出てるぞ」
「あ~い~す~」
パタパタと足を動かしながら催促してくる。
仕舞には持って来たアイスも食べさせてとか言い出すのだろう。
うーん、このまま甘やかして良いものか。
でも近所の高校生のお姉さんはこう言っていた。
「妹が兄貴に甘えてくれるのなんて今だけで、私くらいになると兄貴なんて邪魔な奴以外の何物でもなくなるのよ」
本当だろうか。
うちの妹を見ていると、10年経ってもこのままなんじゃないかって思ったりもする。
でも20年経って大人になってもこのままだったら大変だよな。
何てことを子供ながら考えていた。
あの頃から5年以上経ち、俺は高校生に、あいつも中学2年生になった。
「お兄ぃ~~暑い~~、アイスたべた~い」
だめだ。昔と言ってることが変わっていない。
今もソファにゴロゴロと横たわりながら足をバタバタさせている。
「ほら、そんなに足をバタつかせてるとパンツ見えるぞ」
「へ~んだ。お兄のスケベ~。そんなんだから彼女出来ないんじゃない?」
「む」
二次性徴を過ぎて子供から少女へと変化してきている妹だけど、幸い異性としては意識したことはない。
妹もあんな事は言ってるけど僕の事を男として見てはいないだろう。
あくまでもお互い家族として一緒に居る。それが僕らの当たり前だ。
周りからシスコンブラコン兄妹だとかよく揶揄われるが、家族を大切にして何が悪いというのか。
昔から僕らに理解を示してくれたのは一会君と庸一君だけだった。
庸一君は昔ながらの考えで、長男が他の弟妹の面倒を見たり守ったりするのが当たり前だという人だ。
でも彼は一人っ子なので自分の母親を支えるのも自分の役目なんだと家ではよく家事を手伝っている。
彼にとっては偉くも何でもなくそれが当たり前だ。
だから周りの人が褒めても何で当たり前の事してるだけなのにと首を傾げていた。
そして一会君は、何というか不思議な人で初めて会った時からこの人には何かあるなと僕のインスピレーションがビビッと来たのを今でも覚えている。
そんな彼は、周りの有象無象のせいで大切なものを守れなかったら死んでも死にきれないからな、なんて言葉を小学生の時に言っていた。
彼は本当に僕と同い年なのだろうか。
時折どこか遠くを見ている彼は僕なんかでは想像出来ないような過去を背負っているのかもしれない。
多分聞いちゃいけないんだろうな。
それと小学校を卒業する時もこんな事を言っていた。
「卒業して疎遠になる奴ってのはさ。多分その程度の関係だったんだよ。
実際は卒業してからだって会おうと思えばいつだって会えるし、電話もメールもチャットもあるんだから連絡だって簡単に取り合える。
それはクラスメイトとも先生ともだよな。
俺とハルは学校なんて関係なく友達だろ?」
「もちろんですよ」
間髪入れずにそう答えられた僕に自分自身で良くやったと褒めてあげたい。
あ、それはともかくそんな言葉を周囲で泣いている生徒や先生には聞こえない様に声を抑えて僕だけに言う一会君は小学生ながらに気遣いが凄い。
もしかしたら担任の先生よりも精神年齢が上なのかもしれない。
そんな彼らと親友として今も一緒に居られるのが僕の誇りでもある。
高校に入学したころは彼ら2人と一緒に3年間を楽しく過ごせれば良いと思っていた。
だけど体育祭を過ぎて少しして僕は運命の出会いを果たした。
出会いはチャンスであり、人生の分岐点だ。
だから今年の夏はきっといつもとは違う夏になるだろうと思ったし、実際に違っていた。
だけどまさかあんなことになるなんて。