70.閑話~二度目の出会い~
いつもありがとうございます。
閑話だけファンタジーでお送りしていきます。(時々違うけど)
ここからはまた藤白視点でお送りしていきます。
もしかしたら後半は村基視点になるかも。
あの魔道具の事故から何年が経っただろう。
あの事故を起こした犯人は誰かは大体分かっているけれど捕まることなく今も城内を我が物顔で歩いている事だろう。
尤も私としてもあの事故が無かったら今頃お飾りのお姫様ということで政略結婚の道具にされて奴隷と変わり無い人生を過ごしていた可能性もある。
そう考えればあの人に感謝しても良いのかもしれない。
「姫様。馬車の準備が整ったそうでございます」
「分かりました。ではメイ、行きましょうか」
私は専属メイドのメイを連れて部屋を出ると馬車を用意してある場所へと向かった。
そこでは業者の他に護衛役の騎士が4人、私の到着を待っていた。
「お待たせしました、皆さん」
「はっ。我々もこの任に就けて光栄であります。
道中の安全はお任せください」
挨拶を交わして馬車に乗り込めば程なくして馬車が動き出した。
今回の目的は最近魔物の被害が増えているという東部方面の視察だ。
それと今後の事を考えて、今のうちに東部を治める伯爵との繋がりを作っておきたい。王都に居る貴族とはなかなか話が合わないというか、私はお金と権力にあそこまで貪欲になれる気持ちが分からない。
それは多分私がこの国の姫で恵まれているからなんだろうけど、例え財産を没収されて辺境に飛ばされたとしても、他人を蹴落として上にのしあがろうとする気にはなれないだろう。
その点、地方貴族はまだ話が分かる人が多い。自分の領地と領民を大事にしているから、常に自分だけじゃなく領地全体が豊かに幸せになるにはどうすれば良いかを考えてるんだと思う。
「姫様。あと少しで今日の宿場町に着きます」
「分かりました」
休憩を何度か挟んだとは言え馬車に1日中乗り続けているとお尻が痛くなるのが馬車の欠点です。
伯爵の領都に着くのは明日の夕方の予定だからもう半日の辛抱ですね。
勿論視察なので領都以外も見て回る必要がありますが今は忘れましょう。
そして事件は伯爵への挨拶を終え、次の町へと向かう途中で起きました。
突然馬車がガクンと止まり、馬の悲鳴と一緒に幾つもの獣の咆哮が辺りを包みました。
「何事ですか?!」
馬車の外に誰何しても返事が返ってきません。
慌てて小窓から外を確認すればそこには騎士達の姿はなく、代わりに黒い体毛に覆われた狼のような魔物が何体も馬車の周りを囲んでいました。
「ひ、姫様。護衛の騎士達は一体何処へ行ってしまったのでしょう?」
「分からないわ」
顔を青くして聞いてくるメイに返事をしながら内心舌打ちをしたくなりました。
いくら奇襲を受けたとしても声も立てずに倒される程騎士というものは弱くはないし、この魔物も馬車を破壊してこないところを見るに恐ろしく強い変異個体でも無いでしょう。
なら考えられる事はひとつ。
(逃げたのね)
もしくは予め魔物に襲われるように仕向けたか。
どちらにしろ職務放棄なのは間違いないので帰ったら厳罰にしましょう。
問題は無事に帰れるかという事だけど。
「メイはこのまま馬車の中で待ってて」
「ってまさか外に出られるおつもりですか!?」
「ええ。待っていても助けが来るとは思えないし、この馬車だって長くは持たないわ」
最初から事故に見せかけて私を殺す予定があったなら、丈夫な馬車は用意してないだろう。
私は慎重に馬車の扉を開けながら即座に飛び掛かってきた魔物に準備していた魔法を叩きつけた。
「ホーリーランス!」
「ギャインッ」
直撃を受けた魔物が吹き飛んでいく。
よし、ちゃんと戦える。
「何も知らなかった頃ならともかく、もう私は守られるだけのお人形じゃあないのよ」
更に近くに居た1体も吹き飛ばしながら馬車の外に飛び出して状況を確認すれば、魔物が30体近く居た。
これは、厳しいかもしれない。
1体1体はそれ程強くは無いみたいだけど、一気に来られたら捌ききれない。それに魔力だってどこまで持つか。
これでも攻撃よりも防御や回復の方が得意なんだけど、前衛の騎士も居ないし。
「やるしか無いんですけどねっ!」
「良く言った!!」
「!?」
私の言葉に応えるように横から声が聞こえて来たかと思えば、私に襲い掛かろうとしていた魔物がか2体まとめて薙ぎ払われた。
見ればさっきまでは居なかった剣を携えた少年が私を庇うように立っていた。
「まったく、飛び出しすぎだ!」
「ま、それをカバーするのが僕らの役目ってね」
少年を追うように矢と魔法が飛んできて更に数体の魔物が倒されて行く。
彼らはその統一性のない装備からして冒険者だと思います。
魔物討伐のエキスパート。
さっきの一撃からも分かるように彼らが来てくれたと言うことは勝ったも同然ということだ。
「まだ終わってない。油断すれば死ぬぞ」
「は、はい!」
私の考えを見透かしたように剣を持った少年から檄が飛ぶ。
そうだ。偶然居合わせてくれた彼らに任せる訳にはいかない。これは私の戦いなのだから。
そうして無事に魔物達を撃退出来てお礼を言う時になってようやく、彼が昔助けてくれた少年キヒトだった事を知った。
どうやら私はまた彼に助けられたみたいだ。




