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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
序章:村人Aは学園に通う
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7.校内放送

ある日の昼休み。

その日は見かけない女生徒が藤白の所に来ると、二言三言話をしてそのまま連れだって教室を出て行った。

珍しいな。普段だったら藤白は弁当箱を持ってどこかに行くのに。

かく言う俺は学食派だ。

この学園は広めの学食があって安価で量多めという育ち盛りの高校生には実に有難いラインナップなのだ。

もちろん女性向けのメニューもあるから男女問わず利用者は多い。


「さ、俺達も行くか」

「おう」

「早くしないと席が埋まってしまいますからね」


いつもの3人で学食に向かい、俺はカレーライス、庸一はかつ丼、ハルはきつねうどんを注文して無事に空いていた席に着いた。

その時ちょうど、ポップな音楽と一緒に校内放送が流れ始めた。


ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃ~ん♪

『みなさんこんにちは。お昼の校内放送です♪』


明るくて元気な女の子の声がスピーカーから聞こえてくる。

会った事は無いけどあだ名は有名だ。誰が呼んだかウグイス嬢。

実際に野球のウグイス嬢をしてるかどうかは知らないけど。


……


『続きましては皆さんお待ちかね!

【学園のあの有名人にずばり聞いてみよう】のコーナーです!

本日のゲストは今年の入学当初から話題を集め、わずか3日であだ名が定着したあの人。

眩しい笑顔と優しいほほえみ、誰にでも分け隔てなく接する物腰、長い髪を優雅に流す姿に男女問わず魅了される人が後を絶ちません。

そう。姫様こと藤白 姫乃さんです!

姫様、本日はどうぞよろしくお願いいたします』

『は、はい。よろしくお願いします』


スピーカーから聞こえてきたのは普段は教室で聞いてる藤白の声だった。

ただ若干たどたどしい感じになってるのは緊張しているからだろうな。

それを聞いた周囲は飯を食うのも忘れて放送に聞き入っている。

どうでも良いけどお前ラーメンが伸びるぞ?

でも、そうか。さっき藤白の所に来ていた女生徒は放送部の子だったってことか。

多分事前に依頼はしていたんだろう。

あの子がウグイス嬢だったのかもしれないな。


『それでは早速質問に移らせて頂きます。

最初は軽い質問からということで、この学園を選んだ理由はありますか?です。いかがでしょう』

『そうですね。中学を卒業したら一人暮らしをすると決めていましたので、地元から近すぎず遠すぎない位置にある高校から選びました。

この学園は施設が充実していますし制服も可愛いですよね』

『確かに。この制服目当てで入学してくる子も多いと以前アンケートを取った時に出てましたね』


制服ねぇ。

ちらっと近くを通った女生徒の制服を確認してみたけど……うん、分からん。

この学園の制服がどうこうというより、他校の制服と比べてどこがどう良いのかを説明しろって言われても俺には何とも言えない。


(まったくあなたはダメダメね)


昔から芸術のセンスに恵まれてこなかったんだから仕方ないだろ。


『では次のお題です。ご自身のあだ名についてどう思われていますか?私としてはピッタリだと思いますけど』

『あ、はは。正直過分な評価だと思ってます。

私より可愛い人も素敵な人もこの学園には多いですから』

『うーん、その言葉を嫌味無くサラッと言える所に姫様たる由縁があるんでしょうねぇ。

それにこうして放送ブースで向かい合ってると同性の私でも一瞬見惚れてしまいますから』


周りからも「流石姫様。奥ゆかしい」みたいな声が聞こえてくる。

俺から言わせればもうちょっと肩の力を抜けばいいのに、なんて思ってしまうんだけどな。


『さて、姫様もだいぶ温まってきたところでズバリ聞いてみたいと思います。

姫様は現在好きな男性、もしくは気になっている男性はいますか?』

『残念ながら今はいません』


その言葉に沸き立つ男子たち。

いや別にだからと言ってお前達に可能性がある訳じゃないと思うんだけど。

まあ水を差す必要も無いから黙ってるけどさ。


『我々の入手した情報では隣の席の男子、通称「村人A」とよく話をしているそうですが、その点は如何でしょう』


ん?村人Aって俺か?

まあ確かに隣の席だから朝の時間にちょっと挨拶ついでに話をすることはあるけど、それだけだしなぁ。

夜のあれはノーカンだろうし。


『はい。彼とは席が隣だから世間話をしていますが、それだけでお互い特に仲が良いって事は無いと思います。

別に一緒に遊びに行ったりしたことはありませんし。

良く言えば友人。悪く言えばただのクラスメイトです。

ただそうですね。よく一緒に居る2人と合わせてコントみたいで面白いなって思った事はあります』

『手元の資料によりますとソルジャーと陰陽師の2人ですね。

ちなみに姫様はこれまで多くの男子から告白されて来たと思いますが、彼から告白されたことは?』

『ふふっ。ご想像におまかせします』


いや。そこはちゃんと否定しろよ。

この放送を聞いてるのは妄想力逞しい高校生なんだから。

今間違いなく俺の顔を知ってる奴から生温かい同情の視線が飛んできたぞ。


『ありがとうございます。では最後にこの放送を聞いている人たちに何か伝えたい事はありますか?』

『そうですね。

私実は、学校が終わった後は急いで帰らないといけない事が多いんです。

なので昼休みならまだ良いのですが、放課後に呼び出されてもお応えできない場合があります。

先日も会う事もせずにお断りしてしまいましたし』

『ああ、あの事件は私も知っています。

さて聞きましたね男子。

姫様に告白するのは止めませんが、今後は姫様の迷惑にならないようにしましょう。

そんなことをしても姫様に嫌われてしまうだけですよ。


では以上を持ちまして【学園のあの有名人にずばり聞いてみよう】のコーナーを終了します。

ご清聴ありがとうございました。

ゲストの姫様もありがとうございました』

『はい。ありがとうございました』


なるほど。

藤白ってあまり目立つのが好きじゃなさそうなのに何でこの放送に出たのかと思えば、これを言う為だったんだな。

意外とちゃっかりしてる。


(あなたは行き当たりばったりすぎるんです。

より楽に確実に、そして期待以上の成果を上げる。それが頭を使うってことですよ)


はいはい。俺はそう言うのは苦手だから任せるさ。


「ん?どした?」

「いや。それよりさっさと食わないと。休み時間ももう長くない」

「ああ、だな。って、一会はもう食べ終わってるのか」


箸が止まっていたのは俺以外はみんな同じなので、そこから学食は早食い競争をしているかのように料理に挑む生徒で溢れかえった。



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