69.レッツ☆ビシバシ!
藤白が実はお嬢様ではなかったという衝撃の事実に驚くみんなを見ながら出された紅茶に口をつける。
「あ、美味しい」
「ほんと。やっぱりプロが淹れると違いますね」
「って、なんでお二人はそんなに普通なんですか!?」
「(うんうん)」
まったりお茶を飲む俺達に青葉さんが突っ込みを入れる。
その様子を見て俺はあることに気が付いてしまった。
「藤白。俺は今、重大な問題に気が付いてしまった」
「……なんですか?」
あれ?本題を言う前から何故か藤白からジト目を向けられてる気がする。
いや確かに大した話じゃないけど、なぜ分かった。
俺はこんなにも真剣な顔をしてるのに。
まあいいんだけど。
「このメンツだと突っ込み力が足りない」
「ツッコミ、ですか」
そうなのだ。
今は辛うじて青葉さんがその担当になってくれてるが、彼女はどちらかと言えば元気系妹キャラ。
本来ならボケもツッコミも縁遠い立ち位置だ。
魚沼さんは静かな癒し系だし、ハルは影の参謀役。庸一は細かい事は気にしない性格なのでナチュラルにボケる事はあっても滅多に突っ込まない。
「……あと俺だけか」
「いや一会君が一番のボケ役ですから」
「そ、そんなバカな」
俺の呟きが即座にハルに否定されてしまった。
おかしいなぁ。
滅多な事じゃ俺はボケないんだけどな。
「村基くんは存在そのものがボケというか突拍子もないんですよね」
「藤白まで」
「……言いにくいですけど、それがここに居る全員の総意です」
周りを見れば魚沼さんを含めて全員が頷いてる。
むむ、俺は村人Aと呼ばれるほど普通の人間なんだがな。
「一応言っておくと、普通の人は村人Aなんて呼ばれないですからね」
「なんで俺の考えが分かったし」
「いや多分誰が見ても分かります」
くっ、ここには俺の味方は居ないらしい。
こうなったら話題を変えて逃げるしかないな。
「ま、それはともかく折角ゲーム機があるんだし何かやろうか」
「あ、話題逸らした」
「まぁまぁ。それよりなにやります?」
「私、ゲームってあまりやったことないです」
ふむ。ゲーム初心者でも楽しめるものか。
なら格ゲーは無しだな。シューティングやFPSなんかも避けて、パーティーゲームか双六みたいな運ゲーが良いか。
というかソフト充実し過ぎ。
「黒部先輩、これ全部やったんですか?」
「ん?いや、まあ、クリアしたのは幾つかだけだ」
何故か歯切れの悪い先輩の声を聞きながら良さげなのをチョイスしてみた。
決めるのはゲーム初心者だという魚沼さんがいいかな。
「『レッツ☆ビシバシ』と『マリアパーティー4』と後はこれかな『頂きストーリー』。
魚沼さん、どれがいい?」
「え、ええ!?どれと言われても、その、内容がイマイチ分からないんですけど」
「どれでも大丈夫だから直感で。はい!」
「え、えっと。じゃあ『レッツ☆ビシバシ』で」
「はいよ~」
ちなみに『レッツ☆ビシバシ』と『マリアパーティー4』はミニゲーム集みたいなものだ。
前者はゲームセンターで手軽に3人で遊べるゲームとして古くから人気があるし、後者は天然堂が誇るファミリーゲームの最新版だ。
また『頂きストーリー』は双六で世界中を巡りながら世界一の経営者を目指すゲームだ。噂では東京24区編が一番アツいらしい。
俺は早速『レッツ☆ビシバシ』のソフトをセットしてゲーム機を起動した。
あ、そうそう。コントローラーは8つあるので一度に全員が遊べる。
通常は2つだけなので6つは追加で購入してあったらしい。
「さてと……あれ?」
「なんだ。このゲームなら特にルール説明とかも不要なはずだ。さっさとスタートするぞ」
「ああはいはい」
ちょっとだけ見えたスコア一覧が一人プレイのしか登録されていなかった。
このゲームを一人でかぁ。悪くは無いけどちと寂しいものがあるな。
コントローラーだって1つを除いてほぼ新品だし。
入口付近で控えていた爺やさんがハンカチ片手に感動しているのはきっと「おぼっちゃまにもこんなに友達が出来て嬉しゅうございます」みたいに思っていそうだ。
ともかく最初のゲームが始まった。
このゲームはアホみたいなお題を真面目にテンポよく名乗り上げるのが特徴だ。
『突き刺せ! 親分! 危機一髪!!』
「「『説明!!!』」」
「わひゃっ」
更にこの「説明!」を皆で叫ぶのも鉄板ネタである。
付いて来れなかった魚沼さんから可愛い悲鳴が上がった。
その間にもゲームの説明が流れ本番がスタートする。
最初のお題は樽の中にいる親分を操って見事差し込まれる剣から守ってあげることだ。
今もそれぞれの樽の中で親分が右に左にとダンスを踊る様に剣を避けては時折「あうちっ」と飛び跳ねている。
剣で刺されても元気に飛び跳ねられるんだから丈夫な親分だよな。
最初のゲームの最高得点はハル。続いて魚沼さん。最下位は庸一だ。
こういうミニゲームは運動が出来る出来ないは関係ない所があるから面白いよな。
その後もいくつもミニゲームをクリアして行き、2時間ほど遊んだところで解散することになった。
「今日はありがとうございました」
「うむ。またいつでも遊びに来ると良い」
帰りはなんとタクシーを3台呼んでもらっていて、家の方向に合わせて分かれて帰宅することになった。
またリムジンで送られるのかなとか予想してたけど、確かに1台で全員の家を周るよりこっちの方が早く帰れるもんな。
そこまで考慮してくれる爺やさんは流石本職と言ったところか。
友達とゲーセンに行ったらついやりたくなりますね。
そうです人目も憚らず「説明!」と大声を挙げているのは私です。