64.目と目が合って
いつもありがとうございます。
時々はこういうシーンも欲しいなと思うこの頃。
恋愛系のはずなのにまだイチャイチャ分がありませんからねぇ。
きっと2学期には色々進展しますので温かい目でお待ちください(汗)
突然の上目遣いに虚を突かれた俺を見て、藤白は楽しそうに笑った。
「ふむふむ。てっきり村基くんは私になんて興味ないのかと思ってたんですけど、そうでも無いみたいで安心しました」
半歩距離を詰めながら継続して上目遣いで俺の顔を覗き込む藤白に、俺は反撃を加えることにした。
下がることなくむしろ俺の方からも藤白を見つめながら真剣な表情を浮かべる。
「藤白が美人で可愛いから頑張って隠してるんだぞ」
「どうして隠すんですか?!」
「そんな四六時中エッチな目で見てたら藤白だっていやだろ」
「え、ええエッチなんですか!?」
俺の反撃に顔を赤くしながら反論する藤白。
普段から他の奴らに可愛いとか言われまくってるはずなのに、俺が言うと過剰反応するんだよな。
個人的にはそういうのが可愛いと思ってしまうんだが。
今もすこし潤んだように見える瞳には俺の顔が映っていた。
「……」
「……」
誰も居ない教室で目を逸らせずに居る。
いつもならちょっとふざけた感じで接してるから良いんだけど、やっぱり改めて向かい合うと可愛いんだよな。
広い教室なのに角の隅っこで向かい合う俺達は、ほんのちょっと身体を傾けるだけで触れてしまいそうな距離で見つめ合っていた。
「えっと……」
「はい……」
物音一つしないせいでまるで世界に俺達しか居ないような錯覚を覚える。
例えばここでそっと藤白に手を伸ばしたら彼女はどう反応するんだろうか、なんて考えている自分に驚きつつも俺は自分の人差し指を唇に押し当てた。
驚く藤白。
そして。
ガラガラガラッ
「「どわあぁぁ」」
足音を忍ばせて教室の扉を一気に開ければ、聞き耳を立てていたらしいクラスの男子共が一斉に崩れ落ちてきた。
「やべっ、気付かれたぞ」
「逃げろ~」
「「失礼しました~~」」
反対側の扉に居た連中は慌てて逃げ去り、こっちの連中も一目散に立ち去って行った。
まったく仕方ない奴らだ。
これで今度こそふたりきりになれたけど、もうそんな雰囲気でもないな。
「教室に戻るか」
「はい」
教室に戻る途中、聞き忘れていた事を思い出した。
「そういえば無事にノートは届いたって事でいいんだよな?」
「はい。本来ならお客様の忘れものとして保管するべきところですが、私宛としか思えないメッセージがあったし、そうでなくても返す当てがあったので私の方で預かりました」
昨日の残り時間で書いていた纏めノートは、最後にトイレから戻って来た時にわざとテーブルの上に置いて帰ったんだ。
その際に『いつもバイトを頑張っているお姫様へ』と一言添えておいたので藤白が見たらすぐ分かるだろうと思っていた。
まあそのせいで逆に俺が例の店員さんと藤白が同一人物だって気付いてることが藤白にも伝わってしまった訳だけど。
「前回の学力テスト1位の藤白には無用かとも思ったんだけどな」
「そんなことないです。
今回はバイトも結構やっちゃったせいで勉強時間が少なくなってしまっていましたから、順位も少し落ちるだろうなと予想してます。
なので、あのノートのお陰でテストの出題傾向が分かるのは助かります。
それにやっぱり私だけ勉強会に参加できなかったのは寂しかったので、ああいう気遣いはちょっと嬉しかったです」
言ってしまえば、風邪とかで休んだ次の日に友達がノート取っててくれたようなものかな。
休んでる間は一人寂しく寝ていたけど、学校に来てみれば友達が自分の事を気にしててくれたんだと思うとちょっとしたご褒美を貰えた気分になれる。
「あとあのカバさんのマスコットも可愛くて好きです」
「猫だからな。ね・こ」
「ええ~~~。カバじゃないんですかぁ!?」
「なんて酷い。猫のみーこ君に謝りなさい」
「わっ、名前まで付いてるし」
そんな馬鹿な会話をしながら教室に入れば、もうすっかりいつもの俺達に戻っていた。
さっきの空き教室での気持ちはやっぱり一時の気の迷いみたいなものだよな。うん。