6.警戒される村人
翌朝。
いつも通りに起きて、いつも通りの時間に教室に入り庸一とハルに挨拶をしつつ自分の席に座る。
えっと今日の1時間目はっと。げっ、歴史かあ。
あのおじいちゃん先生の歴史は眠くなるんだよなぁ。
まあでも午後の時間で受けるよりはマシか。
午後は酷いときだと教室の半分以上が居眠りしてるし。
そしてその今日の午後は何かといえば芸術の選択科目。
音楽、美術、舞踏から1つを選んで受ける訳だけど、その中で俺は舞踏を選んだ。
正直、音楽や絵の良し悪しなんて分からないし。
踊りも「もっと優雅に!」とか言われてもいまいちピンと来ない訳だけど、それでも運動は苦手じゃないので少なくとも赤点になるようなことは無いだろう。
ガラガラガラッ
教室の後ろの扉が開かれて教室内が静かになる。
それはつまり例によって姫様が登校したってことだな。見なくても分かる。
「みなさん、おはようございます」
といつものように挨拶をしながらこちら(自分の席)に歩いてきた。
「……」
「?」
いつもならここで隣の席の俺に挨拶をしてくるところだけど、今日はそれが無かった。
いや、別に挨拶しないからどうだって話だけど昨日まで毎日律儀に挨拶してたのに突然無くなると違和感があるというかな。
仕方ない。ならこっちからしてみるか。
「よっ、おはよ」
「……おはようございます」
んん?
なんか凄え他所他所しいというか、警戒されてる?なんで今更?
それとも単に体調でも悪いのか。
「あ、もしかしてあの日か」
「違います!あ、いえ。すみません。何でもないんです」
藤白にしては珍しく大きめの声で否定してきたので、周囲も何事かとこちらに視線を向けたけど、その後の申し訳なさそうな藤白を見て元に戻った。
あ、いや。若干俺が藤白が怒るような発言をしたんじゃないかって事で、男子中心に「村人Aの癖に姫様を怒らせるとは不届きな」みたいな声がちらほら聞こえる。
過激な奴だと「いっぺん締めて立場ってものを分からせた方が良いんじゃないか?」なんて言う奴もいたが、そいつには庸一からの鋭い視線が向けられる。
「まあまあ庸一君。そんな言葉にいちいち目くじらを立ててたら疲れるだけですよ」
「だがな。一会に何かあってからでは遅いだろう」
「大丈夫です。その時は僕も裏から手を回しますから」
「いやお前ら。俺の隣で物騒な会話をするなよ」
俺の為を思って言ってくれてるのは分かるんだけど、この二人は加減が下手だからな。
この二人には大人しくしてもらえた方が助かる。
喧嘩慣れしている程度の奴らなら俺でも対処できるから。
と、それよりも、藤白の様子がおかしいな。
なぜかちらちらと俺の事を見てくるんだが。
俺なんかしたっけ?
「そうか。またラブレターが届いたから断って欲しいとか?」
「いえ、今日は手紙は来てません」
「おおっと、村基選手。バットがボールにかすりもしない!」
「9回裏2ストライク、ランナーなし。このまま終わってしまうのでしょうか」
「いやなんで突然野球中継だよ」
ノリで合いの手を入れてくれる庸一たち。
暇だからって俺で遊ぶな。
そんな俺達を見て藤白はちょっと呆れたようにつぶやいた。
「……気付いてないみたいですね」
「何か言ったか?」
「いえ。何でもありません」
「絶好の誘い球を逃してしまった村基選手」
「ゲームセット!村人チーム惨敗です」
「野球ネタはもういいって」
チャイムが鳴ったので話はそこまでになってしまった。
結局何だったんだろうか。
(……鈍感なのは良い事か悪い事か、判断に悩みますよね)
女の気持ちを察するのは迷宮入りした事件を解き明かすより難しい。
何てことをどこかの名探偵が言ってた気がする。