59.2度目の待ち合わせ
皆で一緒に試験勉強をする日の放課後。
俺達は先日遊びに行った時と同様に校門前で待ち合わせをしていた。
「……なんというか、平和だな」
「ああ」
「藤白さんが居ないだけでこうも違うんですね」
今は丁度、前回から比べて藤白が居ない状態だ。
ただそれだけの違いなのに、前回は大勢の生徒が詰めかけていたけど今回は全くと言っていい程、見向きもされない。
まあ俺達3人は、顔は知られてるかも知れないけど、アイドル的な魅力がある訳でも無いし、どちらかというと悪い意味で有名人だからな。
「~~♪」
おっと。帰る人の中で俺達に手を振って挨拶していった人が居た。
あれは確か裏庭造りを手伝ってくれている先輩のひとりだったな。
名前は……そう言えば聞いてないな。今度教えてもらおう。
それよりこちらからも会釈を返しておく。
「……!?」
続いて通りがかった人は俺の顔を見てギョッとしていた。
何とも失礼な態度だ。
俺が一体何をしたと言うのか。
「ふむ。以前姫様絡みで校舎裏で見た顔だな」
「ああそっか」
そう言えばそんなこともあったか。
体育祭の後はああやって絡まれることも無くなったから忘れてた。
庸一もよく覚えていたもんだ。
「一応な。要注意とまでは行かなくても危険度Cくらいには警戒している」
まるでどこぞのSPだな。
庸一は普段は人の顔と名前を覚えるのは苦手な方だけど、そうした喧嘩相手の顔や性格、体捌きについては忘れないようだ。
お陰で前回は勝てたからと油断していると思わぬカウンターを食らって負けることになる。
意外と格ゲーとかも強いんだ。
「みなさ~ん」
お、青葉さん達もやってきたな。
前回もそうだったけど何故かふたり同時に来るんだよな。
クラス違うはずなのに。
「すみません、お待たせしました」
「俺達も今来たところだ」
「えっと、それってももしかして、言いたかっただけ、ですか?」
俺の返事に魚沼さんからツッコミが入る。
「ふむ。謡子さんも一会君の事が分かって来たみたいですね」
「はい。以前春明くんが『一会君は細かい事は気にしないけどどうでも良い事には乗ってきてくれる』みたいに言ってたので、こういうお約束な会話は好きなのかな、と思いまして」
「ええ、満点です」
魚沼さんの言葉にニッコリと笑顔で頷くハル。
こいつのなかで俺の扱いはどうなってるのか今度聞いておこう。
それよりもだ。
「ふたりはいつの間に下の名前で呼び合うようになったんだ?」
「そ、それは、その……」
「さあみんな集まった事ですし、早速勉強会の会場へと向かいましょう!!」
俺のツッコミに真っ赤になって俯く魚沼さんと、あからさまな話題逸らしに走るハル。
いやまぁ良いんだけどな。
ともかく俺達は揃って校門を後にした。
で、勉強会の会場なんだけど、誰かの家とか図書館っていう案もあったんだけど、家は狭かったり散らかってたり異性を部屋にあげるのはちょっとなぁという所があったし、別に「2時間集中!」みたいに気合の入ったものじゃなくてワイワイ話しながら分からないところや出題予想なんかが出来たら良いなと思っていたので喫茶店でやることにした。
喫茶店なら込み合う夕食時になる前に1時間くらいで解散すれば店の迷惑にもならずに済むだろう。
という訳で、俺お勧めの喫茶店へとやってきた。
「いらっしゃいま……」
「ん?」
「あ、いえ。失礼しました。
いらっしゃいませ。5名様ですね。どうぞこちらへ」
入店した俺達を迎えてくれた店員さんが俺の顔を見て一瞬固まった。
この店員さんとはバイト帰りに逢った事もあって多少顔見知りという程度の仲だ。
前に1人で来た時は特に嫌そうな顔はしてなかったんだけどな。
「一会君。何か嫌われるようなことしたんですか?」
「いや、特に心当たりはないんだが」
「一会の事だからメニュー表にない注文を無茶振りして困らせたりとかしたんじゃないか?」
「あー……」
庸一の補足にちょっと心当たりがあるような無いような。
目を逸らした俺を見てハル達がため息をついた。
「やっぱり何かやったんですね」
「いや。俺はただ『君の一番好きなドリンクを1つ』って注文しただけだ。
……新しい店に入ったら普通やるよな?」
「「やらないよ(です)」」
なぜか全員から否定された。
おかしいなぁ。