56.閑話~嵐の去った後~
いつもありがとうございます。
今回は前々回の閑話の続きです。
ピンクのふわふわな布、後でドレスだと聞かされたが、それに包まれた女の子を保護して家に帰ったその日は村中が大騒動になった。
「ちょ、おま。どっから攫ってきたんだ!?」
「いや攫ってなんかいないから。畑の隅でゴブリンに襲われそうになってた所を助けたんだよ」
「ばっかお前。キノコじゃないんだから突然畑に生えてくる訳ないだろ」
「そだぞぉ。きっと川から流れてきたんだぁ。どんぶらこどんぶらこってなぁ」
「そりゃモモ親父だよおっちゃん。良いからまず家で休ませてやろうぜ」
「お、おぉ。それもそうだな」
普段事件らしい事件もないのどかな田舎だから、突然知らない女の子、しかも貴族っぽい服装の子がやってくれば混乱するのも無理はない。
仕方なくひとまずは俺の家に連れて行った。
迎えてくれた母ちゃんは流石肝が据わっているというか。
「あらいらっしゃい。良く来たねぇ。
まあ狭い家だけどゆっくりして行ってね」
と言ってその子を居間に引っ張り込んで(本人的には丁重に案内したつもりかもしれないけど)椅子に座らせるとお茶を勧めていた。
あ、いくら田舎だからってお茶くらいはある。
むしろ畑仕事を終えた後はお茶で一服するのが常なので、基本的にいつでもお茶は飲めるように用意してあるんだ。
そうして一息ついたところで親父が彼女から話を聞くことにした。
「それでお前さん名前は?見たところ貴族のお嬢さんって感じだが連れの者も居ないようだ。一体どうやってここまで来たんだ?」
「えっと、まずは助けて頂きありがとうございます。
名前はシロノと申します。
実はとある魔道具の暴走に巻き込まれてしまい、王都からこの近くに転移させられてしまったのです」
「王都から!?それはまた随分と遠くから飛ばされて来たもんだ」
王都かぁ。
行商のおっちゃん曰く馬車で7日くらい掛かるって言ってたっけ。
腕を組んで唸る親父。
「うーん、馬車の一つでもあれば王都まで連れて行ってあげられるがなぁ」
うちみたいな小さな村は基本的に自給自足でほとんどを済ませていて、足りない分を半月に1度やってくる行商人から買っている。
だから農耕用の牛はいるけど移動用の馬車はない。
唯一村長宅に馬はいるけど、年老いていて王都まで走れるかは怪しい。
「それでしたら迎えを寄越すように手紙を書きますのでそれを王都まで運んでいただくというのはどうでしょう?」
「まあそれしかないか。次に行商のゴレットさんが来るのは明後日か。
そこからゴレットさんが王都に辿り着くまで7日。
王都から迎えが来る時間を考えれば半月くらいは掛かるがいいかい?」
「ええ。むしろご迷惑をお掛けしているのはこちらなのですから余りお気になさらないでください」
「そう言ってくれると助かる。
あと迎えが来るまではうちで過ごすと良い。
見ての通り狭くて汚いからお嬢ちゃんには厳しいかもしれないが、我慢してくれ。
それとこの村に居る間は倅のキヒトを案内役に付けるから。
何かあったらキヒトに言ってくれ」
「うぇ。俺か!?」
「お前が助けてきたんだ。最後まで面倒見ねぇか」
「うー、分かったよ」
言われる前からそうなるだろうなとは思ってたけどさ。
「あの、ご迷惑かとは思いますが、よろしくお願いします。
それとこの村に居る間は私の身分とかは気にしなくて良いですから」
「お、言ったな。なら村の一員として色々連れまわしてやるから楽しみにしててくれよな」
「はい。よろしくお願いします」
シロノが俺の言葉をどう受け取ったのかは分からないけど、こっちとしてはそのままの意味だ。
翌日はシロノが動けなくなるまで村中を案内して回ったり追いかけっこをしたりして遊んだ。
その次の日は筋肉痛で動けなくなったシロノを皆でお見舞いがてら揶揄う。
更にその次の日に復活したシロノとまた日暮れまで遊び倒したりして、気が付けばシロノはお嬢様から立派に村の子供になっていた。
半月後に迎えの騎士団がやって来た時にはミィ以上の元気娘になっていたので帰った後にちゃんとお嬢様に戻れるのか心配だ。
まあ騎士団を迎えた時のシロノはちゃんとお嬢様っぽい挨拶をしてたから大丈夫かな。