55.気軽に声を掛けられるようになったけど。
翌朝。
いつもよりもぼやけた意識のまま教室に入り自分の席に座ると、お隣からいつものように声を掛けられました。
「よ、おはよ。今日は眠そうだな」
「おはようございます。村基くん。って、やっぱり分かりますか?」
「微妙な変化だけどな」
頑張って隠してたつもりだったのに、村基くんって見てないようでちゃんと見てるんですね。
先ほどすれ違ったクラスメイトはいつも通りでしたから、多分他の人にはバレてないと思います。
「なんだ。誰かと夜遅くまでチャットでもしてたのか?」
「す、鋭いですね」
「藤白の事だから他の選択肢なんて勉強のし過ぎか、読んでる小説の区切りが良いところまで読み進めようとして結局最後まで読んでしまったかくらいだろう」
「うっ」
言われて何故か心当たりがあります。
そうなんですよね。
面白い小説ってあと1ページって思っててもついついその後の展開が気になって止まらなくなるんですよね。
お陰でなんど遅刻しそうになったことか。
「ま、相手も忙しいかもしれないしチャットは程々にな」
「分かってます。昨夜はその、たまたまです」
「そっか。じゃあその言葉に期待しておこう。ちなみに相手は男か?」
「そう、ですけど」
そこまで言われてふと気が付きました。
村基くんがここまで積極的に話を深堀りしてくるのってちょっと珍しくないですか。
これはもしかして。
「あれぇ。もしかして村基くん。嫉妬してます?」
「嫉妬、というか藤白に悪い虫でも付いたんじゃないかと心配してるだけだ。
昨日はクラスメイトと遊びに行ったそうだし、その次の今日でこう変化が見られたら心配にもなるだろう」
「大丈夫ですよ。人を見る目はそれなりにあるつもりですから」
「実際の所、藤白が誰と付き合っても俺がとやかく言えるものでもないよな」
「まあ、ですね」
別に保護者や親兄弟でも無ければ彼氏でもないのに友人関係にとやかく言うのは踏み込み過ぎというものです。
さすがに突然ヤンキーとつるみだしたとか言ったら心配になりますが、キヒトさんは別に悪い人ではないですし。
そんな話をしていた所で小森さんと大林さんが私の所にやって来ました。
「姫様、おはようございます」
「おはようございま~す」
「はい、おはようございます。昨日はありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ一緒に遊べて楽しかったです」
私達が挨拶を交わしていると少し離れて様子を窺っていた他の女子も意を決したように話しかけてきました。
「え、なになに。何の話?」
「昨日おふたりと最近女の子に人気だというあのカフェに連れて行ってもらったんです」
「あぁ、あそこね~」
『女の子に人気のカフェ』で通じる辺り、クラスの女子にはほとんど出回っている情報だと見て間違いないでしょう。
にも拘らず昨日は私達以外にこの学園の人を見かけなかったのは単価が問題なのかな。
やっぱり学生でケーキセット2000円は月に数回が限度でしょうし。
「それで姫様を案内したのはどの人だったんですか?」
「キヒトさんっていう方でした」
「わぉ。流石姫様。付いてる~。
いやぁ、あの人素敵ですよねぇ。
見た感じ私達と歳もそれほど離れていないっぽいのにマジ紳士っていうか」
「そういえば何歳なんでしょう。今度聞いてみようかな」
「ああ無理無理。あそこのスタッフの人達ってプライベートな事はほとんど教えてくれないから。
連絡先何て聞こうものなら『また来てくださればいつでも会えますよ』なんて言われるのがオチだしね」
「えっ」
昨日あっさり連絡先教えてもらったんですけど。
実はあれ、相当珍しい事だったんですね。
キヒトさんも確か初めて渡した、みたいに言ってたけど。
「ただそういうミステリアスなところも含めて格好いいからねぇ」
「そうですね」
「おっ。もしかして姫様もああいうの行ける口なんですか!」
「まあ、多少は」
「そうなんですね!私としてはですねキヒト様xレイジ様の組み合わせなんか最高だと思うんですよ」
「は、はぁ」
組み合わせ?
あれ、それってもしかしてBとかLとかの話だったりします?
さすがにそこまでディープな話はちょっと。
他人の趣味にあれこれ言うつもりも無いですけどね。




