50.お帰りなさいませ
大林さんと小森さんの2人と一緒に電車に乗って2駅。
って、何処か見覚えがあると思ったらうちの最寄りの駅でした。
あれ、ということは最近人気のカフェってもしかして私のバイト先のお店のことでしょうか。
確かにメニューの質も高ければ店内の雰囲気も良くて学園生もよく見かけるので噂になるのは分かる気がします。
特に最近はさくらんぼフェアもやっていてフルーツパフェがお勧めです。
今日シフトに入ってる人たちとはもちろん面識がありますが、多分今の私の姿を見ればそれとなく察して何も言わずに居てくれるでしょう。
それくらいよく気の利く人達なんです。
「あの、もしかしてあそこの喫茶店に行くんですか?」
先んじて2人にそう聞いてみれば、ちょっと納得した顔をしつつも首を横に振られました。
「あそこの喫茶店も良いよねぇ」
「うんうん。前に行った時はパフェがめっちゃ美味しかったわ。
でも今日は別のお店よ」
そう言って向かったのは喫茶店があるのとは反対の道。
ってそっちは飲み屋街になってる筈ですけど。
もちろんまだ日の高いこの時間は酔っ払いや危ない人は滅多に居ないと思いますけど、でも人気のカフェなんてあったでしょうか。
営業時間外で準備中の居酒屋を数件通り過ぎ、やって来たのはお洒落な洋館。
店全体が落ち着いた色使いで外には観葉植物のプランターも並んでいます。
なるほど。
これは期待出来そうな店構えですね。
「でもちょっと高そう?」
「まぁ割高なのは否定しないわ。
でもそれを補うだけの価値はあるってことで」
「さっ、行きましょ行きましょ」
そう言いながら何故か背中を押されるように私が先頭でお店の扉を開けました。
途端、流れてくるのは爽やかなハーブの香りと落ち着いたクラシック音楽。
そして出迎えてくれるのはキチッとスーツを着込んだウェイターさんです。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
物腰も柔らかく優しい微笑みと共に告げられる。
私との距離も腰の曲げる角度も声の大きさトーンに至るまで完璧です。
夢に出てくる執事と比べても見劣りするのは洋服の材質くらいじゃないかと思うくらいに完璧な執事さんが私達の前に居ます。
「外は暑かったでしょう。
どうぞこちらで寛いで下さい」
「は、はい」
突然の執事の登場に驚いてしまいましたが、ここに誘ってくれた小森さん達は慣れたものかな。
と思って後ろを振り返れば目をハートにしたふたりが立っていた。
「はぁ~やっぱ素敵」
「生き返るわぁ~」
そしてそのふたりには別の執事が手を差し伸べた。
「さあお嬢様、お手を」
「お席までご案内致します」
「「はい♥️」」
誘われるままにその手を取るふたり。
って、私と彼女達とで対応が違うのは何故でしょうか。
最初の執事さんは手を差し伸べるでもなく急がせるでもなく、穏やかな笑みを湛えて私の2歩先で待っていてくれてます。
私が歩き出せばその人も同じ歩調で移動して席まで案内されます。
うーん。
夢の中ではよくありましたが、椅子を引かれるっていうのも珍しい体験です。
椅子に座ればすかさずお水の入ったコップが用意されました。
ただ、あれ?
「あの」
「はい、如何なさいましたか」
「なぜ私のコップには氷が入っていないのですか?」
ふたりのコップには氷が幾つも浮かんでいて冷えているのが分かります。
対する私のはと言えば、持ってみれば温い訳ではありませんが、キンキンに冷えている訳でもありません。
さっきと良い今と良い、この待遇の差は何でしょう。
もしかして初見の客と常連とで対応に差をつけているのでしょうか。
だとしたら私としてはマイナス評価なのですが。
ちなみに作者は本物の執事喫茶には行った事がないので想像でお送りしております。
メイド喫茶は1度だけ行った事がありますが、オブラートに言ってただのコスプレしてれば良いんじゃね喫茶(=見た目だけで学祭以下)でがっかりしたのをおぼえてます。