5.夜のスーパーその1
いつもお読みいただきありがとうございます。
タイトルの「その1」は、将来的にその2その3が(きっと)出てくるという意味です。
バイトで凝った首を回しながら俺は近所のスーパーへと向かった。
このスーパーは地域密着型の小規模な店舗だ。
品揃えという面では大型店に劣るものの生鮮食品に関しては地元の農家と契約してたり無農薬野菜を多く仕入れてたりと値段が安い割に良いものが多いと評判だ。
そして俺の今日の狙いは閉店前の値引き総菜。
ここの総菜は奥で食堂のおばちゃんみたいな人が料理してくれてるそうで普通に美味い。
コンビニ弁当も昔に比べたらマシになっているそうだけど、やっぱこう手作りっていうのは良いもんだよな。
「さてと、今日の目玉商品はなにかな~」
うーん、やっぱ人気があるのかほとんど残ってないな。
それとも毎日の売れ行きから作る量を調節してるのか?ありえるな。
そういうところも小規模店舗の強みだよな。
っと、アジフライのパックが1つだけ残ってるじゃないか。しかも2割引き!
「アジフライいただきっ」
「ああっ!」
俺がアジフライを取ったところですぐ後ろから声が聞こえてきた。
何かと思えばすぐ後ろに居た女性も俺のアジフライを狙ってたのか。
ふっ。だが戦場とは非情なものだ。先に取ったものに権利があるのだ。
と、そこでふと、目の前の人をよく見るとどこかで見たことがあるような?
「……あっ」
「え、なんですか?!」
「喫茶店で働いてた人か」
丸眼鏡に髪を三つ編みにした姿は今日の帰りに見た姿まんまだった。
俺の言葉に彼女の方もちょっと驚いたみたいだ。
「って、ああ。そっちですか。え、もしかして見てたんですか?」
「たまたまな。という事は今バイトの帰りか?」
「……そうですけど?」
うん。若干警戒されている。
まあ見た感じ同い年くらいの女の子だし、警戒して当然か。
バイト先を知られて、ここで会ったって事は近所に住んでいる可能性が高いし、俺が悪人だった場合ストーカーみたく付け狙われる危険だってあったかもしれない。
もちろん俺はそんなことをする気は無いけどな。
でもそれを言って信じろと言っても何の根拠もない。
ここで俺が言えることは労いの言葉を伝えるくらいか。
「遅くまでお疲れ様」
「あ、はい。ありがとうございます」
そういうと俺に悪意が無い事だけは伝わったのか、彼女の方も素直に返事をしてきた。
きっと根は真面目な子なんだろう。
それにこんな遅くまでバイトして総菜を求めてスーパーにやってくるという事は、親は仕事で遅くまで帰って来ないかはたまた一人暮らしか。
どっちにしろ苦労してるんだろう。
「……よし」
「?」
「なあ、このアジフライだけど。俺が取ったんだから俺に優先権がある。そうだよな?」
「え、あ、はい。そうですね」
「言い換えればこのアジフライをどうしようと俺の勝手な訳だ」
「はぁ」
「という訳で、ほいっ」
「え?」
さっと持っていたアジフライのパックを彼女の買い物かごへと滑り込ませた。
突然の行動に反応が追い付かない内に俺はサッと身をひるがえして近くにあった揚げ餃子のパックを回収した。
こちらも2割引きなのは確認済みだ。
ただそれをされた彼女は意味が分からず戸惑っている。
「あの、なんで……」
「気にするな。何となくそういう気分だっただけだ」
「ええぇ」
「じゃあな。気を付けて帰れよ」
「ちょっ……」
なおも言い募ろうとした彼女を置いて俺はさっさとレジに向かった。
レジを抜けたところで後ろを見れば、籠にアジフライを入れた彼女がレジに並んだところだった。
また目があったので俺はニィっと笑ってついでにグーサインを送ってやれば、彼女は眉間に皺を寄せて難しい顔をした。
よしよし。これで彼女の中でこの出来事は「変な奴が居たな」で終わりだろう。
俺としても別にどうしてもアジフライが食べたかった訳でも無し。
むしろ自分勝手な言い分だけど何となく良い事をした後に手に入れた飯っていうのは普段より美味しく感じられると思っている。
だから今回の事で俺も彼女も得をしたんだからWin-Winな状態だと言っても良いだろう。
もちろん、それをわざわざ彼女に教えたりはしないけど。
結果として足取りも軽く俺は家へと帰りついたのだった。
(ほんっっと、お節介なんだから)
仕方ないだろ?そう言う性分なんだからさ。