47.閑話~市民に紛れ込むのです~
いつもありがとうございます。
今回の閑話は前回の出会いから数年以上先の出来事です。
前回の続きはまた別の閑話で。
あれはそう、確か彼と再会してから2カ月ほど過ぎた頃だったでしょうか。
私は真新しい衣装を身に纏い、冒険者ギルド前で彼を待ち伏せしていました。
そして眠そうに目を擦りながらやって来た彼の目の前に飛び出します。
「おはようキヒト!」
「ん……」
私を一瞥した彼は、まるで何も見てないとでも言うように私の横をすり抜けようとしました。
「って、待ちなさい」
「えっと……何?」
「ふふん。私の完璧な変装に驚きましたか?」
「変装というか、メイドのコスプレ?
シロノいつの間にそっち方面に目覚めたんだ?」
そう。今私が着ているのは今大人気のメイドカフェの制服です。
ですがこれはコスプレではなく、あくまで私の正体を隠す為の変装なのです。
別に先日馬車で前を通り掛かって良いなって思ったから無理を言って用意させた訳ではありません。
「そんな事よりも何か言うことはありませんの?」
「……ああ」
私の問いかけにひとつ頷いてさっと近付いてくるキヒトは私の顔を挟むように手を持ち上げて……っ!
顔っ、ちかっ。
「ななな何を突然こんな往来でっ!」
「?いや、ヘッドドレスがズレてたから直したんだ。
よし、これでいつものおっちょこちょいで可愛いシロノだな」
「お、おっちょこちょいは余計です!」
「うん、いつもの可愛いシロノだな」
「だだ誰も言い直せなんて言ってません!」
ああもう、キヒトはまったくもう。
この国の王女である私は普段から色々な人から綺麗だとか聡明だとかお世辞はよく言われます。
でもそれは私が王女だからであってそれ以上ではありません。
だからキヒトの馬鹿正直な言葉は私の心に響いてきます。
「それよりほら、依頼を受けていらっしゃい」
「え、あ、あぁ」
悩まし気な顔をしつつギルドの中に入って行くその背中を見送ります。
これで数分は時間が稼げましたので今のうちに呼吸を落ち着けなければ。
「あの、姫様?」
「分かっておりますわ」
お付きのメイが気遣わし気に声を掛けてきますが大丈夫です。
今日は姫としてではなく1市民としての生活を学ぶために来ているのですからこんなところで躓いている場合ではありません。
息を整え待っていればキヒトがあきれ顔で出てきました。
「指名依頼を受けたんだけど」
「そうでしょうとも」
「依頼主が『美人で可愛くて聡明なメイドの格好をしたギルド前にいる少女』ってなってたんだけど」
「そうですわね。そんなの私しか居ませんね」
「姫様……」
後ろからも呆れた声が聞こえましたがこういう時は開き直った者が勝つのです。
「さあ行きましょう。メイド喫茶にゃんにゃんへ!」
「その恰好のまま行くのか?」
「そうですが何か?」
「いや、いい。店員に頑張ってもらおう」
「はぁ」
珍しく煮え切らない態度ですね。
まあ良いです。とにかく今は男性に特に人気という喫茶店に行ってその秘訣を知ることが大事なのですから。
……
…………
………………
(う~ん。こうして改めて夢で見るとなんというか)
この時には既にキヒトにかなり好意を持ってるのが丸わかりです。
別人として見ていられるから微笑ましいなで済んるけど、もし私が同じことをしてると後から知らされたら恥ずかしさのあまり逃げ出したくなりそう。
幸い今の私は学園では姫様なんて呼ばれていても普通の女の子だし、喫茶店のバイトも順調なので同じミスをする心配はない。
それに仲の良い友達だって数える程ですが居ます。
あ、でも、元をただせばその友達は村基くんが繋げてくれたんですよね。
その村基くんとだって体育祭の時は手を引かれたりお姫様抱っこをされたりしましたけどあれは仕方なくだし、友達以上かと聞かれたらまだそんなことは無いと思います。
村基くんだって私の事は気の合う友達、くらいにしか思ってないようだし。
そうじゃなかったらもっと距離を詰めようと色々と誘ってくるだろうから。
それが無いという事は私の事なんて何とも思ってない証拠で……。
(あ~なぜかムカムカしてきました。何でしょうこの気持ち)
放課後だってあの1回だけしかまだ遊びに行ってないのよね。
そりゃあ私だってバイトがあって忙しいけど誘ってくれても良いじゃないですか。
あ、でもよく考えたら村基くんも放課後はよく急いで帰ってますね。
ならお互い忙しいだけなのかも。
うーん、村基くんは一体何をしているんでしょうか。