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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第3章:変わりゆく周囲
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46.秘密基地

それから数日後の昼休み。

魚沼さんの姿は裏庭にあった。

その顔はどことなく暗い。


「いじめは無くなったんじゃないのか?」

「はい。お陰様でいじめは無くなったんですけど、その」


俺の問いかけにため息混じりに答える魚沼さん。

どうやら問題は解決していないようだ。

今回ばかりは俺の作戦が外れたか。

この学園は俺という例外は居るものの、総じてあだ名が付いた生徒は一目置かれる立場になりある程度の融通は通るようになる。

だから今回の件で「セイレーン」と呼ばれる事になった魚沼さんをいじめる奴は居なくなるし誰の目も憚ることなく自由に行動出来る事になると踏んでいたんだが。

そんな俺の失敗の原因はハルが教えてくれた。


「どうやら今度はファンの人が引っ切り無しにやってくるので気が休まらないそうですよ」

「あぁ」


その言葉にな納得する俺達。

魚沼さんの歌声はあの日だけじゃなく、それからもずっと多くの生徒の心を掴んだままだ。

あれから毎日昼休みには最低でも1曲は魚沼さんの歌が流れるし、新曲やライブの予定は無いのかと問い合わせが来ているそうだ。


「ファンクラブ会員も10万人を超えましたしね」

「って、明らかに全校生徒より多くないか?」

「はい。口コミとネットで配信したところ絶賛されてます」


まだ1週間と経ってないのに凄いな。

それも情報拡散力のあるハルが付いててくれてるってのもあるんだろうけど。

ただこうなると問題が出てくる。

人気が出過ぎると、ライブどころかプロデビューしないか、みたいな話が持ち上がってくるんだ。

本人の望む望まないに関係なく。

そうして無理にデビューして潰れたアイドルは過去に何人もいる。


「本気で売り出していくかどうかは本人の意思を尊重しろよ?」

「もちろんです。彼女の嫌がることはさせません。

望むならネットアイドルでもプロでも全力でサポートしますが、あの性格からして難しいでしょうね」


俺達の視線の先では藤白達と並べてささやかな平和を満喫している姿があった。

元々が引っ込み思案な子だったから今くらいがちょうど良いのかもしれない。


「……でだ。なぜ我等は草むしりなどしているのだ?」


そう聞いてきたのは黒部先輩だ。

その横では庸一が黙々と草と格闘している。

黒部先輩はここに来る途中で見掛けたので、あることを餌にして呼び出してみた。


「我は貴殿が秘密基地に招待すると聞いたのだが?」


確かにそう言って誘ったけど、実際にはほとんど手入れのされてない雑草だらけの広場があるだけだ。

でも別に騙した訳ではない。


「いや先輩。俺は友人達と造る秘密基地に一緒に行きませんかと誘ったんですよ」

「ん?何が違う」

「友人達の中には先輩の事も入ってたつもりなんですけど」

「む、我と貴殿は友人か?」

「俺はそう思ってましたけど」

「そ、そうか」


ふっ、と顔を反らす先輩。

これは、もしかして照れてる?先日俺達は強敵ともだと言ったのは先輩なんだけど。

先輩から死角になる位置で庸一が「分かるぞ」と言いたげに先輩を見ている。

そう言えば庸一と仲良くなった時も似た事があったか。


「まあそれで先輩。折角の秘密基地なんです。

自分達の手で1から造り上げる方が愛着が湧くじゃないですか」

「それは当然だな。

しかしここは使われていなかったとは言え、学園の敷地内だろう。

勝手に使用して問題ないのか?」

「はい。ちゃんと学園側に許可は取りました」


藤白と魚沼さん。あと今日は居ないけど光達にも名前を借りて申請を出せば余程の無茶で無ければ許可は下りる。

特に学園側からすれば使われずに荒れ果てていた裏庭が整備されて景観が良くなるのでメリットしかない。


「広さだけはありますから、ゆくゆくは乗馬コースを造る予定ですよ」

「ほう、それはいいな!」

「ちなみに青葉さんからのリクエストです」


そう。藤白達がのんびり出来る場所を造る意味もあるけど、もうひとつの理由がこれ。

庸一が聞き出した青葉さんの欲しいものは馬が楽しく走れる場所だった。

この学園、厩舎はあるけど馬が全力で走れる場所はない。

せいぜい厩舎やグラウンドの周りを散歩するくらいだ。

それだと馬もストレスが溜まるようなので伸び伸びと走れる場所が欲しかったそうだ。

幸いここは土地だけは余ってるし余計な建物もない。

花壇の跡地はあるけど、そこは上手く加工して乗馬で飛び越えるポール代わりにする予定だ。

後は歩行者とぶつからないようにコースを設定してあげれば良いだろう。

完成は早くても来月か夏休み明けになるが、そこまで急ぐ事でもないしのんびりやっていこう。



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