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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第3章:変わりゆく周囲
44/208

44.あっという間

魚沼さんには続けてバラードとアニソンを歌ってもらったがどれも全員が大絶賛するほど上手だった。

これはハルが惚れ込むのも分かる気がする。

ただこのまま魚沼さんオンステージと言うわけにも行かないだろう。

俺の目的は彼女のファンを作ることではないのだから。

なので軽く手を叩きながら仕切り直す。


「さて、これで今日の目的は半分終わったし、後はみんなで好きな曲を歌って行こうか」

「はい!」

「あ、私藤白さんの歌を聴いてみたいです」

「綺麗な人は歌声も綺麗なんでしょうか」

「待って待って。そうやってハードル上げるの止めて~。

魚沼さんに比べたら全然だから」


みんなに煽られて、ちょっと砕けた感じに応えた藤白が入れた曲は、同年代なら誰でも知ってる恋愛ソングでしかもバッチリ上手だったので歌い終わったら拍手で迎えられた。

ただこうも上手な二人が続くとそんなに上手じゃないと自負している俺達も腰が重くなる。


「よし。ここは俺が一般人の歌唱力を見せておこう」


そう言いながらマイクを受け取った俺が入力した曲は『それゆけバイキンマン』。

俺達が生まれる前から今も続く子供向けアニメの金字塔だ。

当然のようにみんな知ってる曲なので俺ひとりで歌うと言うよりもみんなを巻き込みながらワイワイ進める。


「……い、け♪みんなの夢、た~めすため~♪」


子供向けアニメではあるものの、そのテーマは『お前の夢は本気の本物か』と主人公が登場人物達を、まるで獅子が我が子を谷底に突き落とすように試練を与えつつ陰ながら支え応援するというもの。


「お前達の夢は何カラットだ!?」

「「決まってる。100カラットのダイヤよりも輝いているさ」」

「お前達の夢は何万円だ!?」

「「決まってる。プライスレスさ」」

「お前達の夢は本当に叶うのか??」

「「決まってる。僕達は諦めない。だから絶対叶えてみせる!」」

「ならば見せてみろ。お前達の本気を!」

「「任せとけ♪」」


アニメのお決まりのセリフを言えばみんなノリノリで答えてくれる。

歌い終わる頃には汗だくだ。


「みんなノリ良すぎ~。あっついわ~」

「「あはははっ」」


やはり鉄板ネタは強いというか最初にあったぎこちなさもすっかり無くなって、みんなざっくばらんに会話しながら適当に曲を入力していく。

ちなみに庸一は声が低くて太いので演歌が得意で、ハルはアニソンと洋楽を好んで歌う。

青葉さんもアニソンとアイドルグループの歌が好きみたいだ。

『走れ牧場娘』が入力された時はまた皆で「走れ」コールで盛り上がった。

そして楽しい時間はあっという間に過ぎ去りカラオケボックスを後にした。

外に出た所で俺からもう1件寄りたい所があると告げると、藤白と魚沼さんは大丈夫だったけど青葉さんは夕飯の手伝いがあるそうなので、ついでに庸一を送らせる事にした。


「それで村基くん。寄りたい所ってどこですか?」

「美容室。きっと化けると思うんだけど、どう思う?」


魚沼さんを見ながらそう言えば、藤白も納得したように頷いた。

良かった。俺ひとりの美的センスだと信用出来ないけど藤白が賛同してくれるなら問題無いだろう。


「??」


若干一名、当の本人が分かってなさそうだけど、これも挑戦だし頑張って貰おう。

そうしてネットで好評だった美容室に魚沼さんを連れ込み、男子は見ちゃダメと追い出された。

仕方ないので後は藤白に任せてハルと近くの喫茶店で待機すること1時間少々。

藤白からもういいよと連絡を受けたので迎えに行けば、藤白と見知らぬ女子が恥ずかしそうに立っていた。

まぁ魚沼さんなんだけど。


「女の子は魔法使いとはよく言ったもんだな」

「……」


ほんの1時間程で見違えるように魅力的になった魚沼さんを見てハルが固まってしまった。

イメチェンした魚沼さん自身もそんな自分にまだ慣れてなくて恥ずかしそうだ。


「あの、どう、ですか?」

「……」


若干ウェーブを加えた髪を弄りながら上目遣いの魚沼さんに問われたけどハルはまだ固まっている。

仕方ないので脇腹をつついて助け船を出してやった。


「ほらハル。見惚れてないで『か』から始まるあの言葉を言ってあげなさい」

「か、可憐だ」

「はうっ」


そっちか。まぁ間違ってはいないけど。


「じゃあ『き』は?」

「綺麗すぎる!」

「ふぁ」

「なら『く』」

「口説かれないか不安だ」

「え?え?」

「『け』はどうだ」

「けっこ(バキっ)んんっ!」


性急過ぎる単語が出てきそうだったので慌てて止めた。

まぁ言われてる魚沼さんも真っ赤になっていっぱいいっぱいだしな。


「じゃあハル。魚沼さんが変なやつにナンパされないように家まで送ってあげなさい」

「あ、ああ。任せてください。

たとえ100人の族に囲まれても彼女を守り抜くと誓いましょう」

「と言うことだから魚沼さん。また来週ね」

「あ、はい。今日はありがとうございました」


まだ足元が浮いている感じの2人を見送り、俺達も帰る事にした。

家が同じ方向だってのは分かってるので自然と送る形になった。


「藤白。今日は付き合ってくれてありがとう」

「ううん。私こそ凄く楽しかったし誘って貰えて嬉しかったです。

よく考えれば学園に入ってから友達と遊びに行くのって初めてなんですよね」

「姫様は大変だな」

「村人Aが羨ましいです」

「……」

「……」

「「あはは」」


ふだん使わないあだ名で呼びあった後に笑った。

と、そこで道路脇に自販機を発見。

財布を取り出してコインを入れつつ藤白に聞いてみた。


「藤白は何が好きとかある?」

「えっと、オレンジのつぶつぶのとか好きです」

「オッケー」

ガコンッ


サイダーとオレンジを買って、オレンジの方を渡す。


「これは?」

「今日が楽しかったお祝いに奢られてくれ」

「仕方ないなぁ」


ふふっと笑う藤白と缶をぶつけ合った。



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