41.提案
ふたりから相談を受けた翌日。
俺達は揃って学園の裏庭へと来ていた。
目的の一番はハルが助けたいと言っていた女子に会う事だ。
ハルの頼みだから断るという選択肢は無いものの、やはりどんな人を助けるのかはこの目で実際に見ておきたい。
なので事前にハルに呼び出してもらってこうして昼休みに裏庭に集合した。
「こ、こんにち、わ」
おっかなびっくり挨拶をする女の子は、なるほど。内気というか陰気な外見をしていた。
前髪は目が隠れる程長く、後ろは肩よりも長いストレートの黒髪を先の方で1つに結んでいる。
身長も低めで幼児体型とは言わないけどグラマーとはどう頑張っても言えない程度の肉付き。
自信がなさげで視線が揺れたり手足を動かしている。
これは確かにいじめっ子からしたら標的にしたくなるのかもしれないな。
でも。
それでも悪意のある子ではないのは目を見れば分かる。
なによりハルがこの子を助けたいと言った。
俺たちにとって助ける理由はそれだけで十分だ。
「初めましてだね。村基 一会です」
「兵藤 庸一だ」
「あ、はい。魚沼 謡子、です」
ひとまず自己紹介を済ませて立ち話もなんなので座って食事をしながら話を進めることにした。
といってもまずは確認だ。
助ける理由はあるとは言っても助けるかどうかは彼女次第な部分もあるから。
「回りくどいことは苦手だからサクッと本題にはいるんだけど、魚沼さんは今いじめに遭ってるんだよね?」
「は、はい」
「ぶっちゃけて聞くけど、いじめ、無くしたい?」
「え?」
俺の質問に驚く魚沼さん。
なぜそんな当たり前のことをと思うかもしれないけど、結構重要な話だ。
世の中色んな人が居て、なかには「いじめられてる私って健気」なんて思って、そんな自分で居る事を表面上はどうあれ心の裡では求めている人だっている。
そういう人は周りがどうにか助けても気が付けばまた同じ状態に自分から戻ろうとしてしまうし、自分の平穏を脅かす俺達を恨む結果になることもある。
だから最初にちゃんと確認する。
「今のままでも良いって言うなら俺は何もしないし、ハルにも深入りするなって言おうと思う。
それに俺達が動いた場合、上手く行ってもいかなくても今の状態には戻れなくなるよ。
最悪、いじめが酷くなるだけかもしれない。
それに魚沼さんには相当に努力と挑戦をしてもらうことになる。
正直俺から見てもかなり大変だと思う。
それでもいい?俺からの提案を聞く?」
魚沼さんは何も言わずにじっと考え込んでしまった。
そりゃそうか。急にこんなこと言われてもな。
「考える時間が必要なら今日1日考えてもらって明日改めて答えを聞くでもいいよ」
決断を急がせはしない。
突然出てきた他人に人生変える覚悟があるかなんて聞かれてすぐに答えを出せる人なんて早々居ない。
こういうのは本来ならちゃんと信頼関係を作って、その上ですべき話なのは分かってる。
魚沼さんからしたら会って1週間しか経ってないハルが、更に初対面の男子を2人連れて来てよく分からない提案を持ちかけられた状態だ。
俺だったらこんな話に乗ったりしないだろう。
でも。
魚沼さんは俺達が思うよりずっと強い人だったみたいだ。
「あの、よろしく、お願いします」
いつの間にかボロボロと涙をこぼしながら、でもしっかりと頭を下げて言うその姿はとても魅力的だった。
魚沼さんは泣きながら嬉しそうに笑った。
「私、人生で初めてなんです。
今まで私の境遇を知って心配したり助けてあげるって手を差し伸べてくれた人は居ました。
でも全部同情からくるもので。
私の事を信じて、私でも変われるって、そう言って貰えたことなんて今までありませんでした。
でも阿部さんと皆さんは、私の事を信じてくれました。
だから私、頑張ってみようと思います」
「うん、分かった」
彼女が今までどんな人生を歩んできたかは分からない。
でも、彼女のこれからの未来を共に歩いていくことは出来る。
なら背中を押す事だって手を引っ張ることだって出来る。
障害が立ち塞がったら一緒に乗り越えることだって出来る。
とは言っても俺はサポーターだ。
頑張るのは彼女自身と、それとハルだ。