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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第3章:変わりゆく周囲
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37.少しずつ変わる日常

体育祭も無事に(?)終わり、6月に入った。

日本の6月がどういう月かというと『何もない月』だ。

特に行事もなければ試験もない。

更に祝祭日すらない、ないない尽くしなのが6月。


「おはようございます、みなさん」

「おはようございます!」

「姫様、おはようございます♪」


まあそんなことは関係なく6月に入っても藤白の人気は健在。むしろ前より人気が出ている気がする。

特に体育祭を通じて女子同士の距離は若干縮まったんじゃないかな。


「あの姫様。聞いてもいいですか?」

「はい、何でしょうか」

「姫様ってあの狐剣士の人と付き合ってるんてすか?」


こんな質問がぽんと出てくるのも仲良くなれたからかな。


「いいえ。付き合ってませんよ」

「ええっそうなんですか!?

あんなに仲良さそうだったのに」

「付き合っては居ませんが、友人とは呼べると思います」


そう言ってそっとこちらの様子を伺ってきたので小さく頷き返すとちょっぴり嬉しそうな顔をした。

その藤白の変化を目敏く見付けた女子はニヤリと笑った。


「おやおやぁ。これは、ただの友達と言いつつ他の男子より一歩リードしてそうですね」

「リード、ですか?よく分からないですけど」

「あはは、いいのいいの。当人は分からないものって言うし姫様はそのままで居てください」

「はぁ」


よく分からないと首を傾げる藤白にその女子はひらひらと手を振って離れていった。

何とも平和な光景だ。

対して俺への周囲の風当たりはというと特に変わっていない。相変わらず村人Aのままだ。

体育祭でも黒部先輩に決闘で勝ったり藤白を連れて逃げまわったり(こっちは仮面を着けてたからノーカンか)それなりに目立つ事をした気がするんだけど週明けには一切話題に挙がることはなかった。

まあ静かで良い事なんだけどな。

ただ俺の周りでは少しだけ変化があった。


「すまん一会。今日も昼休みは別行動でいいか?」


気まずそうというか気恥ずかしそうにそう言うのは庸一だ。

体育祭で負傷した左腕はもう完治している。

治りが早いのも庸一の特技の一つだ。


「ああ、もちろん」


そんな庸一は今まではほぼ毎日俺達と学食に行っていたがこうして別行動するようになった。

行き先については俺もハルも知ってるので、むしろ頑張ってこいと背中を押している。

何処に行ってるかと言えば厩舎だ。

体育祭の一件以来、青葉さんが時々お弁当を作って来てくれるそうで、それを二人で馬の面倒を見ながら食べているそうだ。

このまま付き合い始めるんじゃないかと俺らは予想してるが、文字通り馬に蹴られたくはないので野暮なことはしない予定だ。

ただ、いつもつるんでいたメンバーが変わると残りのメンバーも行動が変わるらしい。

今度はハルも昼休みに購買でパンなどを買って何処かに行くようになった。

俺は俺でぼっち飯も気にならない質なので変わらず学食に行っている。


「隣いいか?」

「はい、どうぞ」


ひとり優雅に牛丼大盛りを食べてたら隣に誰か来た。

誰かと思ってチラリと横を見ればまず目に入るのはその手に嵌められた黒い指貫グローブ。

幸いワイシャツは学園指定の白だけど、それ以外は手に持った料理まで真っ黒な黒部先輩だった。


「何ですか、その料理」

「イカ墨パスタだそうだ。美味しそうだろう?」

「はあ、まあ」


イカ墨パスタって確かあれだ。

味はともかく食べた後は歯とか口の中が真っ黒になるやつ。

なにより驚きなのはそれが学食のメニューにあることだな。

その疑問に答えてくれる黒部先輩。


「どうやら昨日からパスタフェアを開催してるみたいだぞ」

「そういえばやってましたねぇ」


俺はパスタはそんなに好きじゃなかったから内容まで確認してなかった。

それにしても。

学食の席は満席には程遠い。空いているテーブルもあるし、わざわざ俺の所になんで来たんだろう。

今もそわそわチラチラ俺の様子を伺ってるし。


「……もしかして先輩って、ぼっちなんですか?」


ふと思った事が口から出ると、それを聞き取った先輩が狼狽え出した。


「ち、違うぞ!

我ほどの偉人になると周囲が遠慮して近付かなくなるだけだ」

「あー、確かにそう言うこともありますね」


独特のオーラというか、ただの厨二病というか。

お陰で一緒につるむのはちょっと抵抗がある人も居そうだ。

先輩自身は悪い人ではないみたいなんだけど。


「そ、そう言う貴殿もひとりではないか」

「今日はいつも一緒にいる友人が用事で別行動なんてすよ」

「む、そうなのか。なんだ、別に村八分にされている訳ではなかったのだな」


ほっと息を吐く先輩。

これってもしかして俺がひとりで居るのを心配して様子を見に来てくれたのか?


「先輩のお陰で今日も賑やかに食事が出来そうで助かりました」

「我と貴殿は剣を交えた、いわば強敵(とも)だ。

何かあれば遠慮なく声を掛けるといい」

「ありがとうございます」


何となく友の漢字が違った気がするけど先輩なりの好意であることには違いないので有り難く受け取って置くことにした。

ただ、やっぱりニコッと笑った先輩の歯は黒く染まっていたけど。

とその時、窓の外に見覚えのある後ろ姿が見えた。

あれはハルか。でもあんなところで何を?



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