33.決闘開始
1本橋の決闘は始まってみればその半数以上がまともな打ち合いも出来ずにどちらかが橋になっている平均台から地面に敷かれたマットの上に落ちる結果になっていた。
バランスが悪い人なんて相手の所に届く前に落ちてしまっていた。
だけどそんな中でしっかりと存在をアピールする人物もいる。
『皆様お待たせしました。
赤コーナー、1年A組の聖騎士が、そして青コーナーからは1年D組の紅の王子が1本橋の両端に立ちました。
1年男子の中では現在トップクラスで注目を浴びている2人の戦いです』
『どちらが勝つか目が離せませんね』
『はい。ですがそこ!
学園内での賭け事は禁止ですよ』
そう言われて生徒の待機所の一角が慌てだす。
放送席から見えていたとは思えないけど反応してしまった事で何人かの教師が慌てて向かって行った。
ただ教師陣のテントも何となく慌てているように見えるのは気のせいか?
まあいいんだけどさ。
兎も角今は試合に集中しよう。
平均台の上ではそれぞれが端に立って自然体で剣を持っていた。
「やっとこの時が来たな。ずっと待っていたぞ」
「はぁ」
「先日の試験結果で負けた貸しはここで返させてもらう」
「お、お手柔らかに」
うーん、この二人の温度差の激しさが何とも言えないな。
ギャラリーとしては内容よりも決闘前の口上を言い合ってるその姿を見て期待に胸を膨らませている。
そしていざ始まってみると、意外とと言ったら失礼だけど見事に木刀を打ち合っていた。
「ふっ。もやし王子かと思ったらやるじゃないか。はぁっ!」
「おっと。まあ中学の時に鍛えられたからね。せいっ」
「ほう。そんな凄い師匠が居たのか」
「まあね。僕に言わせれば世界一さ」
こら、ちらりとこちらを見るな。よそ見してると負けるぞ。
お互い一歩も引かない攻防かに思えたところで不意に光がスッと半歩下がった。
それを好機と見た聖が大きく一歩踏み込みながら上段から木刀を振り降ろす。
「ぐふっ」
「勝負あり。勝者、1年D組紅の王子!」
聖の木刀が振り下ろされる前に、光の木刀が聖のみぞおちに突き刺さった。
恐らく聖にはあの木刀は全く見えていなかっただろう。
周りで見ていれば光が下がりながらそっと木刀の切っ先を足元から持ち上げてちょうど刺さる位置に置いて行ったのが分かったはずだ。
あのまま打ち合っても勝てた気がするけど技ありの1本って感じだな。
自陣に戻った光を他の生徒たちが称賛していた。
聖は聖で更に対抗意識を燃やしているらしく「流石俺のライバル」なんてブツブツ呟いている。
さてお次は誰だ。
「一会くん。行ってくるよ」
「ハルか。怪我しないようにな」
特に気負うところもなく平均台に上がるハル。
頭脳派のハルがどう戦うか。
一番勝ち目があるとしたら相手が自爆してくれることだけど、相手は3年生か。ならこの競技にも慣れてそうだな。
「始め!」
審判の合図で危なげなく平均台の上を歩いてくる相手選手。
やっぱり勝手に落ちてくれるのは期待できないか。
逆にハルはおっかなびっくり足を進めている。
こりゃ1発でも木刀を受ければその反動で落ちてしまいそうだな。
そして両者があと1歩で届くかといった位置で先に攻撃を仕掛けたのはなんとハルの方だった。
「ほいっ」
「なにっ!?」
何を思ったのか突然手に持っていた木刀を相手に放り投げるハル。それも誰でも簡単に避けられるような速度で、だ。
相手選手も突然のことに驚いたけど上体を右に傾けることで楽々避けてしまった。
だけどそれこそがハルの狙いだった。
「たあっ」
「なっ、うわあっ」
剣を手放して両手が空いたハルは飛び込むようにして相手の胴体に体当たりした。
その反動で上体を傾けていた相手は敢え無く平均台から落ちた。
そしてハルはというと。
「ははっ。セーフ」
ギリギリ平均台にしがみ付いていた。
何とも不格好ではあるが勝ちは勝ち。
戻って来たハルを俺達は大きな拍手で迎えたのだった。
将来的には光を中心とした話も描こうと思っていますが、今のところはサラッと行きます。
あ、聖は総じて当て馬役です。