32.1本橋の決闘
俺がグラウンドに戻って来た頃には既にお姫様抱っこレースは終わっていた。
『お姫様抱っこレース。1位は去年に引き続き3年の皇帝・聖女ペアが。
そして2位には大健闘、1年の紅の王子・天使ペアが勝ち取りました。
これにより今年のベストカップルはこの2組となります』
「「わあぁぁぁー--っ」」
え、そういうレースだったのか?
なにか趣旨が随分と変わった気がするけど体育祭って何だっけな。
まあ皆盛り上がってるから良いのか。
周囲から囃し立てられて生徒会長の皇帝たちは堂々としてるけど光たちはちょっと恥ずかしそうだ。
ま、幸せ税ということで我慢してもらおう。
『なお、先ほど見事な逃走劇を見せてくれた狐剣士・姫様ペアにも特別賞が贈られます』
えっとぉ。そっか、姫側にポイントが入るから狐剣士が誰か分からなくても問題ないのか。
『さあ体育祭も残すところあと1つです』
『泣いても笑ってもこれで優勝チームが決まります』
『その競技とは「1本橋の決闘」だー-っ』
「「おおおぉぉー--っ」」
決闘って。だから体育と関係ないと思うのは俺だけなのか?
俺の疑問を無視して祭は進んでいく。
『ルールを説明します。
決闘者は高さ30センチ幅10センチ長さ4メートルの平均台の両端からスタートし、相手を平均台から落とすか、男子は木刀、女子はチャンバラ棒で1本を先取すると勝利となります。
1本の判定は剣道部主将にお願いしてあります』
『女子はともかく男子の木刀は危険ではありませんか?』
『ご安心ください。木刀の周りにクッションを付けてありますし、平均台の上でそれ程力強く木刀を振れる人は早々居ません』
それなら多少は安全なのか。
ま、少なくとも毎年恒例の競技のようだし、今まで続いてるってことは大怪我した人は出てない証拠とも言える。
それに俺は出場選手じゃないし、気楽なもんだ。
「C組、山下君、黒部君居ませんか~」
「ん?」
3年の運営委員の人が競技の参加者を呼びに来た。
だけど周りを見れば人があまりいない。
さっきのバカ騒ぎからまだ帰ってきてない奴が結構居るようだ。
恐らくその2人も帰ってきていないのだろう。
そこで呼びに来た人と目が合った。
「お、そこに居るのは村基くんだったか。山下君、黒部君がどこに居るか知らないか?」
「さあ。恐らくさっきのナイト選考会から帰ってきてないんだと思いますよ」
「そうか。困ったなぁ。毎年この競技は前の競技で力尽きた男子が多数居て盛り上がるのは極一部なんだ。お姫様抱っこレースに並ぶ花形競技だって言うのにな。
これで参加人数まで減ったとなると更に困ったことになる。いやぁ困ったなぁ~」
そう言いながらちらっちらっと俺の方を見る先輩。
これは代わりに俺に出てほしいんだろうなぁ。
まあ俺としても出たくない理由は無いので出てもいいんだけど。
「じゃあ代わりに出ましょうか?」
「おっ、本当かい。いやあ助かるよ。おっ、そっちにいる君も一緒によろしく」
「えっ僕ですか!?僕は武道は苦手なのですけど」
「大丈夫大丈夫。負けても誰も怒らないって」
巻き添えをくったのはちょうど戻って来たハルだった。
うーん、ハルは自己申告取り肉体派じゃないからこういう競技はそれほど強くない。
弓とか投擲武器もありなら十分勝ち目はあるんだけどな。
ともかく俺達は案内に従って東側のスタート地点へとやって来た。
「お、君は確か村人Aじゃなかったか?」
そう声を掛けてきたのは聖だった。
俺の事なんてよく覚えてるな。
「そっちは聖さんだっけ」
「ああ。聖騎士と呼んでくれ。どうやらA~C組がこちら側スタートらしいな」
そうか。言われてみればD組の光が向こう側に居る。
他にも妙に服装が黒い人が。
「あの黒い人ってもしかして黒騎士と呼ばれている人ですか?」
「ん?ああ、そうだな。2年の黒騎士先輩だ。今の俺の目指すべき人と言っても過言ではないな」
いやそこまでは聞いてない。
それと目指すって黒騎士と聖騎士じゃあ同じ騎士でも方向性が随分違うと思うんだけどな。
その辺りのこだわりは俺にはよく分からないから好きにしてもらおう。
でも、そうか。あれが庸一に怪我をさせた男か。
「あの、黒騎士の相手は俺がやりたいんですけど良いですか?」
「俺は紅の王子とやりたいしいいぞ」
「私達も出来れば黒騎士とは戦いたくないと思ってたんだ。どうせ無様に負けるのが目に見えてるからな」
他の先輩方も快く順番を調整してくれることになった。
あの黒騎士って人は馬術だけじゃなくて剣術も嗜んでるみたいだな。
今の俺でどこまで太刀打ち出来るか。
仇討ちって程でもないけどやれるだけやってみよう。




