31.狐の逃走劇
いつもありがとうございます。
気が付けばもう1カ月。早いですね。
そして今回も当初考えていたプロットから脱線していくのは早かった汗
藤白の手を引いて走る。
後ろを見れば追い掛けて来るのは50人程だ。
捕まって俺がボコられるのは最悪我慢出来るがその場合、藤白も巻き込まれて怪我をするかもしれない。
だから奴らに捕まる訳にはいかない。
でも藤白も特別運動が得意というでもなし、どうしても追い掛けてくる男子の方が速い。
『おおっと、ナイト選考会名物「俺の屍を越えてゆけ」が始まっております。
逃避行をするのは1年C組の姫様こと藤白さんと、その手を引くのは狐の仮面を着けた謎の男子生徒。あれは一体誰でしょうか』
『さぁ分かりません。
変身ヒーローの正体を探るのはマナー違反ですからね。そうでしょう?』
『そうでした!私としたことが大変失礼致しました。
ここはひとまず狐剣士と呼ばせて頂きましょう。
追いかけるは姫様ファンクラブを中心とした男子総勢47名。
このまま行くと追い付かれてしまいそうですが、おおっとこれは!?』
いよいよ後ろとの距離が狭まって来たところで俺は苦肉の策に出ることにした。
「藤白。嫌かも知れないけど少し我慢してくれ」
「え、はい。多分大丈夫です」
「じゃあ失礼して。よっと」
「ふわっ」
俺は藤白を引き寄せると膝裏に腕を回して持ち上げた。
所謂お姫様抱っこだ。
その状態で猛ダッシュでグラウンドを駆け抜ける。
これを見た男子達は半狂乱だ。
「ぐおおぉ、なんてことを!」
「羨ましいぞこの野郎!」
「我等が姫様を。許すまじ」
「潰せ~~!!」
『おおっと、鮮やかなお姫様抱っこを披露した狐剣士。まだレースは始まっていないぞ!』
『抱かれている姫様に嫌そうな雰囲気はありませんね。
若干手を繋いだ時に強引だったのではないかという意見も寄せられましたが、これで判定は白です』
『またある情報によりますと、姫様はこの選考会の始まる前に既にとある男子の手を取っていたそうです』
『なるほど。すでに意中の男子を決めていたという事ですか』
藤白を抱き上げた事でスピードは上がった。
でもまだ引き離せる程ではない。
「藤白、乗り心地は問題ないか?」
「はい。思ったより振動もないし快適です。
でも村……狐さん。後ろが迫ってきてます」
「分かってる」
どうするか。
いつもならここで庸一がフォローに入ってくれるけど左肩を負傷していてはそれも期待出来ない。
ここは藤白だけでも逃がすか。
そう思っていた所で追い掛けてくる男子を遮るように大きな影が飛び込んできた。
「ヒヒーーン」
「馬ぁ!?ってことは」
「えっと、狐剣士さん。兵藤さんの要請により助太刀します」
やって来たのは青葉さん。
馬術部だとは聞いてたけどまさか騎乗して来るとは。
追っかけ男子達も馬と女子の組み合わせにたじろいでいる。
でもこれで逃げ切れるかと言えばそうでもない。
「はっはっはぁ。同志よ。
お前達の活躍で既にスタート地点までの道は塞いだぞ」
先回りした一団がこの追っかけっこのゴールとなるレースのスタート地点前に壁を作っていた。
俺一人ならなんとかすり抜けれるかもしれないけど、藤白を抱っこした状態では無理だ。
こうなったら。
「藤白、馬に乗った事ってあるか?」
「え、流石に無いですよ」
「だよな。でもまあこれも経験だろう。頑張ってくれ。
青葉さん、手伝って」
「はーい。ささ姫様、どうぞこちらへ」
藤白の腰に手を添えて持ち上げて馬に乗せる。
青葉さんも手伝ってくれたから比較的スムーズに藤白は馬上の人となった。
「奴らを引き付けるのは俺がやるからふたりはスタート地点に行って。
そうすればこれ以上狙われることも無いから」
「分かりました!」
「狐さんも気を付けて」
馬に乗って移動する藤白と青葉さんを見送った後、男子たちに目を向ける。
男子は、姫様を追うべきか残った俺に向かうべきか迷っているようだ。
なら後押ししてやるか。
「おいお前ら。ここにまだ姫様に触れた残り香が残っているぞ?」
自分で言っててちょっと変態っぽいなと思ったけど効果は覿面だった。
「なっ、姫様の残り香だと!?なんてうらやまけしからん!奴だ。奴を潰せ!!」
「「うおおおおぉぉ」」
全員が俺へ向けて突撃してくる。
仕方ないので俺は暴徒と化した男子を引き連れてグラウンドの外へ。
これ以上ここに居たら進行の邪魔になるしな。
あとは一瞬建物の影に隠れたところで仮面を外して何食わぬ顔でグラウンドへと戻って行った。
なんでこれで俺が正体だってバレないのか。