27.まるで社長令嬢かアイドルのように
いつもありがとうございます。
この作品は甘々な展開は当分先です。
自然な感じで少しずつ距離を縮めつつ糖分が増えていけたらなと考えています。
(実際にどうなるかは登場人物たち次第なのですが)
第1競技が終わり、俺達も手伝いから一時的に解放されたのでCチームの待機場所へと向かった。
そこではハルが皆から称賛と質問攻めにあっていた。
「いやあ凄いじゃないか」
「いったいどうやったんだ?もし差し支えないなら教えてもらえないか」
普段あまり目立つことの無いハルは急に注目を浴びてちょっと困ってるみたいだった。
でも窮地って訳でもないしこれも良い経験だと俺は遠目に眺めるだけに留めた。
「言っても良いですけど、マネするのは大変ですよ。
その、うちの100メートルのコースって50メートルの位置に印があるじゃないですか。
そこから垂直の位置にあるフェンスの網目と柱の位置を確認して、約8メートル分の距離を測ったんです」
「「……」」
ハルの答えに顔を見合わせる周囲の人達。
「お、おい。そんな遠目でフェンスの網目なんて数えられるか?」
「いや無理だろ」
うん、俺でも無理だ。
とかく視力の良いハルだからこそ出来る芸当だと思う。
いや俺だと視力が良くて網目が見えたところですぐ何個目か見失いそうだな。
やっぱりハルの観察力は凄いってことだ。
『えー第2第3種目に参加の選手はスタート位置にお集まりください』
「次って何だっけ」
「あぁ、6人7脚と射的だな」
6人7脚ってのはあれだな。2人3脚の6人バージョン。
参加する選手は各学年から2名ずつ選出されて、3年1年2年2年1年3年の順に並んで走る。
コースには2つのコーンが縦に置いてあって選手たちはその間を縫うようにして走りゴールまでのタイムを競う。
「行くぞ1年」
「は、はい!」
「なぁに、気負うな。失敗しても俺達がフォローしてやる」
「あ、ありがとう、ございます」
強面の上級生に挟まれた1年生がビクビクしながら並んでる。
そしていざ始まってみると、えっちらおっちら走る選手たち。
競技の意図としては軍隊の行進を競技に置き換えたらこうなったって放送が流れたけど何だかなぁ。
「……言っちゃなんだけど、ぐだぐだだな」
「まあ体格も何もかも違うからなぁ」
それとCチームについては更に可哀そうなのが誰も注目していないということだな。
なぜなら並行して行われている射的に藤白が参加するからだ。
「それじゃあ行ってきます」
「「行ってらっしゃいませ!!」」
一体何処の社長令嬢を見送ってるんだと言いたくなる光景だ。
残ってる男子総出で整列することもないだろうに。
その藤白が参加する射的はどうやらボウガンを使うようだ。
スタートラインで射撃姿勢を取り、5メートル先の的を射抜き、当たった場所によってポイントが加算される。
もちろん事故が無いように選手の横には教師が立ってフォローを行っている。
「藤白さんって射的得意なのかな?」
「さあ。でも構えはしっかりしてるな」
「うむ。他の選手と比べても体幹にぶれも無いしあれはいいとこ行くんじゃないか?」
俺達、というよりCチーム全員が固唾を飲んで見守る中、藤白がトリガーに指をあてた。
「フッ」ターンッ!
「あた~り~」
いや和弓じゃないんだからその当たった時の掛け声は違くないか?
ただ実際藤白の放った矢は狙い過たず的の中心を射抜いていた。
それを見た周りの連中はおおはしゃぎだ。
「姫様すげぇ!」
「かっこいい~」
「天は2物も3物も与えたんだな」
「うぉぉ姫様~~!!」
続く2射目もど真ん中。3射目はちょっと上にずれたけど総合ポイントは余裕の1位だ。
凱旋してきた藤白は再びチームの仲間たちから取り囲まれることになってしまったけど、それも行きの時よりも凄い勢いだ。
さながらアイドルのライブで興奮が抑えきれずに暴徒化するファンのよう、ってそうなったら流石にマズいな。
これは、そうなる前に救出すべきか。
俺は庸一たちに目で合図を送りながら囲みの中に分け入っていった。
『続きましての競技は~』
「オラお前ら。姫様は運営委員の仕事じゃあ!
姫様の邪魔をする奴はどいつだ。いてまうぞオラァ!!」
「ひぇっ」
「なんだなんだ、カチコミか!?」
まるでカタギじゃない風に俺は怒鳴りながら人垣をかき分け、藤白のところまで辿り着いた。
「藤白、逃げるぞ」
「え、あ。村基くん」
藤白が俺を認識したところで手を差し出せば藤白もパッと掴んでくれたのでそのまま今しがた通ってきたところを、って流石にもう埋まりかけてるが問題ない。
何故なら俺には心強い仲間が居るからな。
「はいはい。道を空けてください」
「ほら下がって下がって!
ロープより前に出ないでください」
庸一とハルがバリケードになってくれて俺達がすり抜ける隙間を作ってくれていた。
ロープなんて無いけどそこはノリだ。
「サンキュ、庸一。ハル」
「良いってことよ」
「午後になれば多少落ち着くと思いますよ」
そんな会話を交わしつつ、俺は藤白と共に無事に脱出に成功した。
後の事は、あ、先生も騒ぎを聞きつけてやってきたみたいだしそちらに任せよう。