21.学力試験(結果)
学園に入学してから1月。
GWが明けたと思えば学力テストがあって今日はその結果が貼り出されていた。
掲示板いっぱいに1位から最下位まで。
「この学園は試験結果をフルオープンにするんだな」
「生徒の競争心を高める為だそうだが意味あるか?」
「どうでしょうね。
あと試験のランキングによってあだ名が付いたりもするそうですよ」
「好きだねぇ。この学園はそういうの」
何かある度にあだ名を付けたがってるようにも思える。
そこまでする意図はなんなのだろうか。
まぁ、上が考える事なんて大抵しょうもないことだけど。
少なくとも直接俺達に何かを強制してくるまでは気にしなくても良いだろう。
「あ、そういえば試験があったからかここ最近はようやく静かになったな」
「例の呼び出しか?」
「そうそう」
「4月中だけで4回もありましたからねぇ。どれも穏便にお帰り頂いた訳ですけど」
「穏便……まあ病院に搬送された人は居なかったみたいだし、逆恨みされている様子もないからそう表現してもいっか」
事ある毎に「村人Aらしくしろ」なんて言ってくる先輩が居たけれど、5月に入ってからはぱったり止まった。
まあ今でも藤白や有名人と馴れ馴れしくしていると鋭い目線を向けられることはあるけど、それなら藤白に告白しにいってついでに撃沈している奴らは良いのかと思ったらそちらは良いらしい。
「姫様の魅力に惹かれてしまうのは男子として仕方のない事だ。
それにそうして多くの男子から告白されたという実績が姫様の評価に繋がる。
お前か?お前は村人Aだろう。村人Aが姫様に告白して良い訳がない」
いったい何の評価だというのか。俺だったらそんな評価はいらないな。
あと後半は村人に対する差別だと思う。
別に今のところ彼女に告白したいとは思っていないから良いんだが。
ま、それより今は試験の結果か。
総合成績の上位に俺達の名前は残念ながら無い。
1クラス36人の6クラス、計216人が1学年に居る訳だがその中で俺は48位。
特別良くは無いが悪くも無い中の上ってところだ。
庸一はスポーツの方が得意とは言え別段頭が悪い訳でもないので120位。
ハルは得意不得意がはっきりしてるせいで平均点は低め。結果131位。
「ま、こんなもんだろうな」
「だな」
「僕も化学と古典はほぼ満点だったので文句なしです。
それよりもあれが気になりませんか?」
そう言いながらハルが指差したのは藤白の名前だ。
なんと堂々の1位の座を獲得していた。
こりゃまた藤白の周りは賑やかになるな。
「っと、噂をすれば藤白が来た」
「すげぇ。人垣が左右に割れたぞ」
「まさに姫様のおなりって感じですね」
「まあ本人は嬉しく無さそうだけどな」
藤白は苦笑を浮かべつつも「みなさん、ありがとうございます」なんて優等生な笑顔を浮かべつつ順位表をじっと眺めていた。
……ふむ。自分の順位だけなら先に答案も帰ってきているし何位かはすぐに分かりそうなものだけど、誰かの名前を探しているんだろうか。
その視線が50位くらいに向けられたところで、ふと振り返りなぜか目が合った。
(まさか俺の名前を探してた?)
そう思うのは自意識過剰か。
今もここには多くの生徒でごった返しているし偶然だよな。
ただ振り返ったことで藤白が順位表を見終えたと周りが判断したんだろう。
それまで我慢していたお祝いの言葉がライスシャワーのように藤白に浴びせられた。
「おめでとうございます、姫様!」
「さすが姫様です」
「天は二物を与えたというのはまさにこの事ですね」
「あはは、ありがとうございます。皆さん」
更にそこに試験の成績は学年7位だけど有名度で言えばトップと言っても過言ではない男子がやって来た。
「学年1位おめでとうございます。姫様」
「ありがとうございます。あなたは確かA組の聖さんでしたか」
「はい。聖騎士の聖です。顔を覚えて頂けていて光栄です」
「あの入学式の挨拶は衝撃的でしたからね」
そうだなぁ。
突然「僕は聖騎士になります」だもんな。
この学園じゃなければまだ中二病を患っているのかと思う所だ。
でもこいつの凄いところは有言実行だとばかりに常に背筋を伸ばして本当の騎士かと言いたくなる程かっちりと行動しているところだ。
まあ若干頭も硬そうなのが心配ではあるけど。
その聖は胸に腕を当てて敬礼のようなポーズを取った。
「姫様。今回は負けてしまいましたが次の年末考査では必ず僕が1位になってみせます。そしたら……」
と何かを言いかけたところで再び人垣が割れて現れたのは、俺達の学年で5本の指に入る有名人の『紅の王子』だった。




