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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第13章:村人らしく姫様らしく
208/208

208.終話〜そしてようこそ

邪神の復活、そして再封印から1年。

まだまだ国には住む場所も食べる物も困っている国民も大勢居た。

ただ幸いにも悪意ある者の多くは邪神の被害を受けていたので、貧しくてもお互いに支え合って生きていく国風も出来、なんとか餓死者を出さずに済んでいた。

そんな中。


「大変です、姫様〜」


大変だと言いつつあまり危機感のない声が場内に響いた。

それを聞いた私は溜め息を付きながら書類から顔を上げた。


「どうしたの、メイ。

大声を上げながら廊下を走るなんて」

「それが大変なんです!」

「それは聞いたわ。一体何が大変なの?」

「あの、近隣の農村から荷馬車いっぱいのジャガイモが届きました!

王都は今大変だろうからと無償で食糧支援をさせて頂きますって」

「それは良かったわ。

正直このままだと危ないと思っていたから」


今しがた見ていた書類も食糧支援に関するものだった。

尤も、こちらは逆に支援して欲しいという内容だったけど。

だからまさに渡りに舟といった気分だ。


「それとこちら目録と、姫様への差し入れということで蒸かしたおイモです」

「ありがとう。熱いうちに頂きましょうね」

「はい!」


仕事の手を止めてまだ湯気の立つジャガイモを手にとって食べた。

姫としてははしたないかもだけどここには私とメイしか居ないし。


「はふはふ、あちちっ」


ただ蒸かして軽く塩を振っただけの筈なのに甘くて美味しい。

何よりどこか懐かしい気もする。

子供の頃にどこかの農村で食べた事があるような……っ!


「メイ、目録を見せて!」

「え、はいっ」


メイから受け取ったそれに目を通した私は全身が総毛立つ気がした。

この筆跡は間違いない。


「このジャガイモを運んできた人はまだ王都に居るの?」

「はい、広場で炊き出しをしてるかと。

って、姫様どちらへ!?」


突然飛び出した私にメイが声を掛けるが止まってなんていられない。

広場へとやってきた私はひとりの男性の後ろ姿を見付けて。


「はああっ!」

「ぐぼぺごらっ」


全力でドロップキックをお見舞いしてやった。

吹き飛ばされた男性は腰をさすりながら立ち上がると片手を上げて何でもない風に挨拶してきた。


「よ、よお、シロノ。元気そうで良かった。

しばらく見ない間にお転婆度が上がったようだな」

「この馬鹿キヒト。今まで何処にいたのよ!」


そう、そこに居たのは若干顔形に違いはあるものの、間違いなく死んだはずのキヒトだった。

私がキヒトの魂を見間違えるはずがないもの。

なぜどうしてと疑問は尽きないが、流石にこの場でこれ以上問い詰める訳にも行かなかったので、私はキヒトの首根っこを掴んで王城の執務室へと場所を移した。


「それで、なんで生きてるの?」

「いや。その言い方だと死んでた方が良かった風に聞こえるから」

「そうじゃないけど、死体もあったし埋葬してお墓も作ったのよ?」

「そうか。なら今度墓参りでも行くか」


ズズッとメイが淹れてくれたお茶を飲みつつとぼけた事を言うキヒトは、記憶にあるままだ。


「まぁ簡単に言うと甦ったんだ」

「そんな簡単に」

「実際は大変だったっぽいぞ。

死んだ俺の魂の前に例の女神の上司っぽい神様がやってきてな。

『我々の都合で済まなかったな。お詫びに来世ではチート能力付きで転生させよう』

とか言い出したから、来世とかどうでも良いから今世で甦らせてくれって頼み込んだんだ。

そしたら大分渋られたけど、何とかなった。

ただやっぱり無理があったらしくて甦った直後は記憶が混濁しててな。

毎晩変な夢は見るし大変だった。

で、先日ようやくシロノの事を思い出せたからこうして王都まで来たって訳だ」


話を聞く限り、キヒトはキヒトで大変だったみたい。

だからって許してはあげないけど。


「それで?これからは私の傍にいてくれるのよね?

むしろキヒト1人、田舎でのんびり畑仕事とか許さないから」

「あーうん。そうなるだろうと思って向こうには別れを告げて来た」


向こうって所で遠い目をしたのが気になるけど、問い詰めるのはまた今度にしてあげましょう。

これから時間は沢山あるのだから。


……

…………

………………


4月。

真新しい制服を着た新入生達が英伝学園の門を潜っていく。

それを迎えるのは溌剌とした男子の声。


『ようこそ、英伝学園へ』


何気ないその一言に新入生達の抱え込んでいた緊張が取り払われた。

その1本筋の通った姿に学生の質の高さを垣間見た。

そしてその強くて優しい瞳が自分たちが歓迎されているのだと告げていた。

だから新入生達も負けじと胸を張って校舎の中へと入っていく。

この先輩が居る学園なら間違いないと希望を抱きながら。


ただ、いつの時代も例外は居るらしい。

校舎に入らずにふらふらと彷徨い歩く女子が1人。

不安そうに辺りを見回しながら進んだ先で不意に声を掛けられた。


「あら、いらっしゃい」

「!」


声の方を見れば綺麗に手入れされた裏庭にある東屋で優雅にお茶を飲んでいる女性がいた。

それはまるでおとぎの国のようで、女性はお姫様のように優雅で美しかった。


「どうしたの?迷子?」

「え、あの、私」

「ふふっ、慌てなくても大丈夫よ。まだ時間もあるし。

それに去年もね。迷子になった子は居たから。

まぁ私の事なんだけど」

「え、お姫様も迷子になられたんですか!?」


驚く女の子の発言を聞いて女性の方も驚いていた。

突然お姫様なんて呼ばれれば普通は驚くか。

言った女の子の方も自分の発言に顔を赤くしていた。


「あ。ごめんなさい、突然お姫様とか言ってしまって」

「それは良いのよ。

ただまだ名乗って無いのにそう呼ばれて驚いただけ」

「え、じゃあ本物のお姫様?」

「本物かと問われると困るけど、学園内では『姫様』で通ってるわ」


にこりと笑う姫乃は、じっと女の子の顔を見てひとつ頷いた。


「透き通るような白い肌に綺麗な黒髪。

あなたも近い内にあだ名が付けられそうね」

「そんな、わたしなんて」


学園案内の資料で、この学園では一部の優秀な生徒にはあだ名が付くのは知っていた。

だけど名実ともに普通の女の子でしか無い自分が、そんな有名人になるなんて想像も出来なかった。


「あ、メール。……ふむふむ。ふふっ」


携帯に届いたメールを読んだ姫乃がにこっと笑顔を見せた。

見惚れる程の笑顔なのに何故か頭の中で警鐘が鳴っている気がする。

そしてそれはある意味正しく、そして手遅れだった。


「じゃあ選んでね」

「はい?」

「私と一緒に校舎に入って有名人になるか、今迎えにやって来てる彼と一緒に校舎に入って有名人なるか」

「え、えっと他の選択肢は無いんですか?」

「あるわよ。

彼に捕まることなく校舎に入って有名人なるコースが、ね」


つまりどう足掻いても有名人になるのは免れないっぽい。

しかし目の前のお姫様と一緒に居たら噂になるのは分かる気がするけど、じゃあ今から来るっていう彼は何者なのだろうか。

どこかの王子様か超絶イケメン俳優、とか?


「あの、一体どんな凄い人が迎えに来るんですか?」

「村人Aよ」

「は?」

「だから村人A。

私にとって世界一素敵な男の子よ」


そう言って姫乃は今日一番の笑顔を見せるのだった。



突然ではありますが、ここでひとまずの小休止とさせて頂きます。

約7ヶ月お付き合い頂きありがとうございます。


本来なら新学期からもあの人が教師としてやってきたり、庸一と青葉さんの話など出したい話は尽きないのですが、途中でこの最終回が思い浮かんでしまったのと、ここを逃すと卒業まで行くことになりそうだったので。


「え、ここで!?」

「まだまだ先が読みたかったのに!!」


と思って頂けてたら幸いです。

ではまた次の作品でお会い出来るのを楽しみにしています。


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