20.閑話~守るものがあるかぎり~
負け戦。撤退戦。
それは俺の短い人生の中で比較的多く占めている。
むしろ余裕で勝てることなんて数えるほどだ。
一緒に撤退している仲間もみんなボロボロだ。
「居たぞ。こっちだ!」
「逃がすな。殺せぇ」
背後から殺意溢れる声が聞こえてきた。
仲間のアキが罠を仕掛けて時価稼ぎをしてくれたけど、逃げ切れなかったか。
「チッ、追い付いてきたか」
「すまん、俺がへまやったせいで」
「全くだ。帰ったら旨い飯でも奢ってくれ」
「お、おうっ」
頷くヨイチだったが顔色は優れない。
なぜならこのままだと確実に追い付かれるし、左腕を負傷してるから満足に戦えもしないだろう。
俺も荷物を背負った状態では逃げ切れる自信がない。
なので荷物をヨイチに預けることにした。
「ヨイチ、彼女を頼む。
お前なら右手だけでも抱えて行けるだろ」
拐われた少女の救出。それが今回の任務だった。
途中までは一緒に走っていたその子は体力切れで俺に背負われていた。
少女の身体を受け取りつつヨイチが顔をしかめる。
「ああ。だけどお前は!?」
「なに、知ってるだろ?殿は得意なんだ。
お荷物さえなければ何とかなる。
それより奢りの件、忘れるなよ?」
「くっ、わかった」
ヨイチにしても今の状況で他に手がないのは分かっているだろう。
そして自分たちが早く逃げ切る事が全員の生存に繋がるということも。
だから振り返ることなく走り去る。
その背中を見送った俺はゆっくりと振り返り、招かれざる客へと向き直った。
「さあ、ここは通行止めだ」
そう言いつつ魔法を発動させる。
俺と奴らを囲む結界だ。
「なっ、これは封鎖結界だと!?」
「くっ、なぜあんな奴が聖騎士の魔法を使えるんだ」
慌てる追手に拳を向けながら俺は答えた。
「昔聖騎士だったおっさんに酒代を払う代わりに教えて貰ったんだ。
さあ、俺を倒さない限り先には進めないぞ」
「チッ、猪口才な。ならば速攻で貴様を殺すまで。かかれっ!」
よし掛かった。
録に魔力を籠めてないから無視して結界を攻撃されたら簡単に突破される所だった。
これで俺が負けない限りこいつらはここで足止めだ。
「仲間の命を背負った俺はしぶといぜ。覚悟しな!」
敵は20人。圧倒的に不利だが負けるわけにはいかない。
……
…………
………………
気が付けばいつもの自分の部屋だ。
「全く夢の中の俺は無茶し過ぎだろ」
もっと楽な生き方は幾らでも出来たはずだ。
それなのにただ知り合いの子が誘拐されたと聞いては邪教集団のアジトに襲撃をかけたりするんだから。
「あの後、素手の俺はどうしたんだっけな」
その後の夢も見たことがあるから大きな怪我もなく生き延びたのは分かっている。
それと助けた少女が俺ではなくヨイチに惚れ込んだことも。
結局俺個人としては危険な目に遭っただけだった。
「ま、後悔はしてなかったからいいか」
色々な場面の夢を見てきたが、後悔したのはただの一度きりだった。
そこだけは誇っても良いのかもしれない。