199.下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる
すみません、珍しく体調を崩し中です。
コロナではないとは思いますが。
まだまだ寒い日が続きますので皆様も健康にはお気を付けください。
今回の決闘、もし仮に皇子がサブマシンガン級の武器を持ち出すようなら即降参する予定だった。
流石に周囲への被害が計り知れないからな。
そういう意味で今彼が持ってる拳銃はギリセーフ。
あの型式なら観客席まで飛ぶ頃には用意してたアクリル製の盾で十分防げる。
なので勝てるかどうかは俺次第となる。
「今日は風がなくてよかった。
皇子、こういう決闘で一番気をつけないと行けないのは何だと思う?」
「ん?己の無力さを理解することか?」
「まぁそれも大事だけどな。俺が思うに」
言いながらマントの中から筒状の物を2つ取り出して頭に付いたピンを抜きながらふたりの中間付近に投げた。
それを見た皇子の顔が青ざめる。
「なっ、手榴弾だと!?」
「大丈夫、ただの発煙筒だ」
言ったそばからプシューッと凄い勢いで煙が放出された。
これで観客席からならともかく、遠くから俺達の姿を正確に把握するのは難しくなっただろう。
「最も注意すべきは『狙撃』だ。
皇子は神聖な決闘に第三者は不介入だと言うだろう。
しかし既に誘拐と脅迫は起きた。
なら直接的な手段に訴えて来る可能性もある」
「それで煙幕か。考えたな。
だがまだ武器の優位は揺らいでは居ないぞ」
皇子の言う通り、いくら彼が下手でも数メートルまで近づけば当たるだろう。
だけどまだまだ勘違いしているとしか言い様がない。
「ふっ、誰が遠距離武器を持ってないなんて言ったかな」
「まさか貴様も銃を!?」
「いやいや、もっと効果的な武器が俺なんかでも簡単に手に入るのがこの世の中なんだよ」
言いながらマントをはだけて見せる。
すると両脇に抱えるように箱があり、そこから導火線が伸びていた。
その箱は知らない人には何てことはないけど、知っている人には脅威でしかない。
「そ、その形状。まさかロケットランチャーか!?」
「おお、その表現は絶妙に正しいな!」
「そんなものを人に向けて良いと思っているのか!!」
「良くは無いけど決闘だし、多少の危険は目を瞑ってもらおう」
「馬鹿野郎。多少で済むわけないだろっ」
「ふっ、問答無用だ」
皇子の文句を無視して俺はその導火線にライターで火を点けた。
そして前面の蓋をパカリと開ける。
そこから顔を覗かせたのはロケットはロケットでもロケット花火。
本物のロケットランチャーが日本で簡単に手に入る訳がない。
これはただのネタグッズだ。
それでも人に向けて良いものではないけど。
「良い子のみんなは真似するなよ!」
ピュンピュンピュンピュンピュンピュンッ
「ぎゃあああーー」
一斉に飛び出す500本のロケット花火が皇子を襲う。
まさに数の暴力。下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるだ。
皇子は慌てて頭を抱えながら地面に伏せるがその腕や足に何本も花火が当たっていく。
もっとも、たかが花火だし素肌に当たっても多少火傷する位だ。
そこに更なる追い打ちをかける。
「ホイッとな」
ババババッ
「ぐぅぅっ」
伏せた皇子の頭の近くで爆発するのはお馴染み爆竹だ。
繰り返すが良い子は真似しちゃ駄目だぞ。
そして爆竹の音に紛れて一気に距離を詰めた俺は、皇子から拳銃を奪い取り皇子の背中に押し当てた。
って、これは。……ああ、そうか。
「皇子、済まないがそのままの態勢で少し我慢してくれ」
少しだけ優しさを籠めながら皇子にお願いする。
いや、この態勢だとどう考えても脅迫か。
「ぐっ、何をする気だ」
「誘拐犯を呼び出す」
答えながら携帯を取り出し電話を掛ける。
4コール目で無事に繋がった。
掛けた先は先輩の携帯なのでちゃんと持っててくれて良かった。
「もしもし?」
『おい、話が違うぞ。何のつもりだ』
「約束は破って無いさ。俺は別に戦わないとは言ってないし。
それより交渉の時間だ。
今から10分以内に先輩を連れてこい。
その時、あなた自身は居なくても良いけど時間に遅れたり先輩が怪我をしていたら皇子に後遺症の残る怪我を負ってもらう。
クライアントの家族があなたの所為で人生を台無しにされたらどうなるか分かってるだろうな」
『10分!?無理に決まってるだろ』
「いやいや。アルファビルからここまで車で移動すれば5分。エレベータで降りる時間も合わせても7分って所だ」
『なっ、なぜこちらの位置を把握している!?』
「さあな。じゃあ急げよ」
『ちょっとま』
電話を切りつつ、自分の言動を反省する。
今のやり取りのどこに交渉があっただろうか。