197.さあ、出番です!
『さあ佳境を迎えてまいりました、英伝学園VS王貴学院の対抗試合も残すところ最後の競技となりました。
ここでこれまでの戦績を振り返ってみましょう』
校内放送で我が校自慢の放送娘、ウグイス嬢さんの元気な声が流れてくる。
昼休みと放課後の放送を除けば今期最後の出番だろうし気合も入るか。
『第1試合のチェス勝負では一進一退の攻防の結果、プロモーションを決めた王貴学院の宰相が勝利!
続く第2試合、乗馬勝負では本校乗馬部の青葉選手が2ポイント差で勝利を納めました』
そう、他の種目は誰が選手として出るとか全然気にしてなかったけど、乗馬は青葉さんが出場していた。
コースは勿論この学園の裏庭だ。
聞けば先週からずっと放課後は乗馬の練習に明け暮れていたらしいし、今日の為に練習してたんだな。
その青葉さんは皆から褒められて嬉しそうに照れていた。
「えへへ、やっぱりホームですからね。繰り返し練習できた分、有利でした。
むしろ相手の人は初めてのコースであそこまで上手に回ってみせたのが凄いと思います。
多分条件が同じなら負けていたのは私です」
「いや素晴らしい走りだった。
人馬一体とはまさに君の事だろう。
同じ馬に乗る者として尊敬に値する」
「あ、ありがとうございます」
謙虚な青葉さんに紳士的に答える相手プレイヤー。
彼は確か先日見かけた時に唯一真面そうだと思った生徒か。
試合後にお互いの健闘を称える姿は学生らしいものだった。
『フッ、君達とはここの出来が違うのだよ』
とチェスで勝って自分の頭を突きながらバカ笑いしていた宰相とは大違いだ。
場所が変わっても良い奴が居れば悪い奴もいるってことなんだろう。
あと俺達の隣で応援していた庸一が試合が終わった後の方がソワソワしてる姿を見て俺達はにやにやしていた。
『第3試合の演奏勝負。
どちらも素晴らしい演奏でしたが審査員の採点の結果、わずか3点差で王貴学院の勝利となりました。
そして昼休憩を挟んで第4試合はダンス。
王貴学院の男爵令嬢とパートナーがワルツを踊ったのに対し、英伝学園はダンス部による合唱を交えたダンス。
こちらは満場一致で英伝学園の勝利となりました』
演奏はクラシックをソロでと指定があったけど、ダンスにそういう指定は無かったからな。
単純に技術だけではなく、場の盛り上がりも審査に影響があったと思う。
「あんなのズルよ!
『悪魔にもラブソングを』は私も大好きなんだから。
思わず手拍子しちゃったじゃないの」
「いえ男爵令嬢。
あなた手拍子どころか、サイリウムまで振ってライブノリしてたじゃないですか。
どこから取り出したんですか、それ」
「テヘヘッ」
「それとあなたのダンスは落第ものです。
学院に帰ったら特訓しましょうね」
「ひえぇ〜」
公爵令嬢に首根っこを掴まれて退場していく男爵令嬢は、やはり下剋上キャラにはなれそうもない。
むしろ妹キャラとして需要がありそうだ。
『さあそして!
この後行われる最後の種目は『決闘』。
2対2で迎えたこの場面。もちろん勝利した側の学校が勝利となる大事な一戦です。
その舞台に立つのは王貴学院からは皇子が、いま大勢の学院生に見送られながら登場しました!
キラリと光る金髪を靡かせて颯爽と歩く姿はまさに皇子。
手元の情報によりますと、皇子はあの二宮財閥の御曹司です。
上に2人の兄がいるものの、後継者候補の一人に名を連ねています。
玉の輿を狙う女子は今がチャンスかもしれませんね!』
いやそんな言葉に乗って声を掛けてくるような女子に引っ掛かる馬鹿は居ないだろ。
あの皇子は言動こそ他人を見下した所があるけど、極度の女好きって感じではない。
まあ、姫乃に手を出したら殺すけど。
『対する英伝学園からはこの人。
期待のダークホース、村人A!
ブックと言えば本。ザ・ブックと言えば聖書。
村人と言えば一般人。村人Aと言えば彼を置いて他に居ない!
まさに常識に囚われない男』
……ん?いま変な言葉が聞こえたような。
『また、こちらの情報によりますと、今回の決闘。
姫様を寄越せと迫った皇子に村人Aが「俺の女に手を出すな」と手袋を投げた事が切欠だそうで。
私も好きな男からそんなこと言われてみたい!』
いや手袋は投げてないけど。
それと俺の女発言に観客からブーイングの嵐が巻き起こる。
「てめぇ、村人A!何が俺の女だ!!」
「俺達の姫様を少しでも泣かせたら袋叩きだからな、覚悟しておけ!」
「負けたら承知しねぇぞ!」
一応応援に聞こえなくもないような?
まぁ、どっちにしろ姫乃を泣かせる予定は生涯無い。