196.人質の正体
すみません、1日空いてしまいました。
そして今週は毎日投稿はちょっと厳しいかもしれません。
気長にお待ち頂けると助かります。
家を出た俺は改めて発信機の位置を確認した。
……やっぱり、どれも問題ない。
チャットでも全員に安否確認を行えば、すぐに全員から返信が返ってきている。
だけど、さっきの脅迫電話がブラフとも思えないんだよなぁ。
そんなことしても学園に到着すれば自ずと合流するだろうし、そうなれば嘘がバレる。
それに俺の彼女を拐ったと言ってたけど。
「おはよう、姫乃」
「あ、一会くん!」
姫乃の家まで迎えに行けば、姫乃は不安そうではあるものの無事な様子だ。
こうなってくると次の連絡が来るまで俺に出来ることはない。
仕方なく俺達は流しの会社所属のタクシーを拾って学園へと向かった。
「一会くん。どうして今日はタクシーなの?」
「いつものルートは監視されてる危険があるからな」
昔読んだ探偵小説では殺し屋の監視網を警戒した主人公が3台目にやってたき辻馬車に乗るなど最大限移動に注意を払っていた。
今時代なら遠くのビルから望遠レンズで監視されたり、街頭の監視カメラの内容がチェックされている危険がある。
まぁ警戒すれば切りが無いのだけど。
ただ学生一人にどこまでするだろうか。
もちろん油断はしないけど、人質を確保し終えたらしい今ならそこまで警戒するものでもないと思いたい。
結局、有り難いことに俺の心配は杞憂に終わり、何事もなく学園に到着出来た。
先に着いていたハル達も俺達の姿を見てホッとしている。
「おはようございます、一会君」
「ああ、おはよう。
それにしても、やっぱり全員居るな」
姫乃の代わりに青葉さんや魚沼さんが拐われたって可能性もありはしたけど、安否確認は出来てたしそれぞれ庸一とハルが早めに合流していたので心配はしていなかった。
こうなると益々謎だな。
「庸一、それと黒部先輩も、今日1日彼女達の護衛をお願いします」
「おう!」
「任せろ」
俺達の中でも武闘派の2人が守りを固めてくれれば学園内で女性陣が襲われる心配は大きく減るだろう。
「念のためこれを渡しておきます」
「これは、スタンガンか」
「服の上からでも効くくらい強力だから間違っても味方に使わないように。
敵には情け容赦無用です」
「しかし良いのか?
これは一会が決闘で使う予定だったんじゃないのか?」
「いや、決闘でそんな武器は使わないから」
黒部先輩はなんて物騒な事を言うんだ。
俺がそんな危険な真似をする訳がない。
「村基君、先生達に話して助けてもらうのはだめなんですか?」
青葉さんがそう尋ねて来たけど、俺は首を横に振った。
確かに味方は多い方が良いし単純に人探しというなら人数は力だ。
だけど今回は誘拐事件だし、相手がどんな手を使ってくるかもまだ分からない。
危険な事に巻き込むことになるし、何よりも学園の教師が味方とは限らない。
教師本人は大丈夫でもそこから話が広がって敵に情報が渡るのも回避したいしな。
多分向こうは誰かを姫乃と勘違いして誘拐してしまっているからそれに気づかれると姫乃たちも危なくなる。
Prrr……
【非通知】
どうやら約束していた連絡が来たみたいだ。
俺は念のため皆から離れつつ電話を取った。
「もしもし、彼女は無事なんだろうな」
『焦るな。今スピーカーモードにしてやる。
ただし分かっていると思うが余計な事を話すなよ』
「分かってる。だから彼女に手を出すな」
『……1分だ。いいな』
合成音声でそう言った後、電話の向こうで何かを操作した音がした後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『村基君!』
「(この声は。ああ、なるほど)瑞樹先輩。無事ですか?
何か酷い事されてませんか?」
『うん、大丈夫。今朝突然黒服の人達に襲われた時は驚いたけど、痛い事とかはされてないよ』
ゴォォォー…………
「それは良かった。
多分今日中には開放されるので少しだけ我慢してください」
『う、うん。待ってるね。村基君が助けてくれるのを』
受話器越しにそう伝えてきた瑞樹先輩の声は、まだ不安そうだ。
そりゃそうか。
向こうでどんな説明を受けたのか分からないけど、誘拐されて、恐らく逃げられない様に手足を縛られても居るだろう。
それに誘拐犯が男だと考えれば、人質としては生きていれば十分価値はあるので乱暴されたりする危険もある。
そうなれば命は助かっても心と身体に傷が残る。
出来ればそれは避けたいが。
いずれにしても今すぐ助けに行けない以上、誘拐犯のプロ意識と人間性を信じるしかない。
『時間だ』
短くそう告げた声からは感情などは読み取れない。
ただ約束を守って電話を掛けてきたところも加味して期待しよう。
俺は俺の出来る事を。
決闘はこの後、午後から。