195.闘う前から勝負は決まるもの
そうして、意味のない議論を経て、というか価値観が違いすぎて学園側の言い分は何1つ通じず。
ならば全ての責任は学院側が持つということで、決闘の話は通ってしまった。
売り言葉に買い言葉で話を大きくした俺が言うのは良くないけど、通って良いのかよ。
話し合いは終わりということで、俺と姫乃は一足先に生徒会室を後にしていた。
「大変な事になりましたね」
「法に触れるような話にすれば撤回すると期待してたんだけどダメだったな。
あ、一応言っておくけど結果がどうあれ姫乃が奴らに従う必要はないからな」
「って、良いんですか?」
「もちろん。ここは個人の尊厳が守られてる法治国家日本だ。
何か契約書を書いた訳でもないし、仮に書いてもそんなものは法的に意味はない」
「じゃあさっきの会話は無駄だったんですか?」
「だな。じゃなかったら姫乃の命が掛かってるのに負ける可能性がゼロではないものを認める訳がないよ」
仮に姫乃を強制的に奴隷にするような話であれば、会話が成立する限り阻止するし、無理な場合は物理的に阻止するまでだ。
そう考えていたらいつの間にか姫乃の顔色が悪い。
「私、一会くんが馬鹿にされて後先考えずに言ってしまいましたが、勝てるのでしょうか?」
「ん?ああ」
どうやら今になって俺が負ける可能性に思い至ったらしい。
「あの皇子の事だから、勝ったら一会くんに何してくるか……」
「足蹴にされて唾を吐き掛けられるくらいはあるだろうな。
他にも観衆の前で裸で土下座させられたりとか」
「うわぁ」
俺の言葉を聞いて想像してしまったのか、かなり嫌そうな顔になってしまった。
仮に逆の立場だったら……間違いなくルールとか無視して皇子を半殺しにして阻止するだろうな。
さすがに姫乃にそんな事はさせられない。
「大丈夫、勝つから」
「でもあの人が正々堂々と勝負するでしょうか」
「それは難しいところだな」
貴族とか支配者ってのは負けることに比べれば、どんな手を使っても勝つことを優先する。
勝てば官軍、死人に口無し。
本当に何でもありなら暗殺者を雇って決闘の日までに殺してしまうのが確実だ。
事故に見せかけて車で轢き殺したり駅のホームで突き飛ばして電車に突っ込ませるのも有効だ。
金持ちなら遺書とかも偽造出来るだろうしな。
他に考えられる事と言えば。
「皆にお守りを配らないといけないな」
「お守り?」
「ああ。後で姫乃にも渡すから今月いっぱいは肌見放さず持ち歩いて欲しい」
神様が守ってくれるなんて微塵も信じてない俺がお守りを配ると言うので首を傾げる姫乃。
まぁ、後日渡すときに中に発信機が入ってるって説明したら物凄く納得してくれた。
なにせ暗殺の次に有り得そうなのが誘拐からの脅迫だからな。
その場合、怖いのは狙われるのが俺ではなく俺の親しい友人だって事だ。
いくら俺でも目の届かないところまでは防ぎようがない。
発信機があっても誘拐そのものは防げないけど、手遅れになる前に救い出せる可能性は高くなる。
「まあ何事もなく終わってくれるのが一番だけどな」
「そうですね」
俺のそんな心配は良く言えば外れ、悪く言っても外れる事になった。
翌日には全員に発信機入りのお守りを渡し、併せて起こりうる事態についても説明しておいたけど、特に誰も襲われる事なく親善試合当日を迎えた。
しかし時間に余裕を持って家を出ようとした俺の携帯電話から着信音が鳴った。
【非通知】
この時点で嫌な予感しかしないが取らないわけにもいかないか。
「もしもし?」
『村基一会だな』
「ああそうだ。あんたは誰だ?」
機械合成された音声か。
それを聞きながら発信機の位置を確認する。
『お前の大事な女は預かった。
無事に返して欲しければ今日の決闘で無様に敗北しろ』
「なんだと!?
彼女は無事なんだろうな!」
『安心しろ。今は薬で眠らせてあるがお前が従う限り無傷で返すと約束しよう』
「信用出来ないな。
せめて彼女自身の口から無事を確認したい。
薬は何時間で切れる?
決闘前に起きるならもう一度電話を掛けてこい」
『ふっ、まあ良いだろう。2時間後にまた電話する』
俺が強がっていると思ったのだろう。
電話の相手は多少の譲歩を見せつつ電話を切った。
この話の感じ、恐らく素人では無いだろう。
なら変な話だけど信用出来る。
ただ問題は、一体誰を誘拐したんだ?