191.常識的な出迎え
午後のチャイムを聞きながら俺達は正面口で来客を待っていた。
来るのはおぼっちゃま学院の生徒代表という事だけどいったいどんな奴らが来るのか。
そう思っていた俺達の視線の先に特徴的なシルエットの車が停まったのが見えた。
「……タクシーとかならともかく、学校にリムジンで乗り付けてくるってどういう神経してんだろうな」
「外車以外は車とは認めない、的なノリかもしれませんね」
俺の呟きに姫乃が律儀に返してくれる。
そういえばそんなシーンが先日見た映画にあったな。
デートに日本車のしかも軽で迎えに来た男性を見て怒った女性がそう言い放って帰ってしまった。
リアルに考えるとお前は日本の産業に喧嘩を売ってるのかって言う話だけど。
生産コストや燃費など諸々を考慮した時、日本の軽自動車っていうのは物凄く理に適ったもので、ってそれは今はいいか。
それよりも問題はその車から出てきた人たちだ。
「……帰っても良いかな」
「流石にダメでしょう」
一目見た瞬間にトラブル臭しかしないというか、嫌な予感がひしひしとしてくる。
遠目に見ても異様に金が掛かっている出で立ち。
先に降りた執事やメイドに対する態度から考えて7人中6人は世話を焼いてもらって当然と考えてそうだ。
あれは関わっちゃいけない部類の人間だ。
でもまぁ俺がやらないと他の奴が被害を受けるだけか。
仕方ない。
生徒会長にはあとで何か奢らせるとしよう。
腹をくくった俺は正面口まで来た彼らに丁寧に挨拶をした。
「ようこそ英伝学園へ」
しかし、予想通りというかなんというか彼らは上から目線な態度で返してきた。
「ふんっ。まさか迎えはお前達2人だけか」
「そうですが」
「ふむ、どうやら我々は舐められているようだな」
「そうね。常識的に考えて校長を始め教師生徒総出で我らを正門前から迎えるものでしょう?」
「「……」」
先頭に立つ金髪の男女は俺達の取った礼が気に入らなかったようだ。
常識的にと言ったけど、全校生徒で歓迎するような相手というと他国の王族とかか?
いやそれでも無い気がする。
仮にあるとすれば、例えば何らかの災害で校舎は半壊、生徒にも多くの重傷者が出た時に、真っ先に救援に駆けつけてくれたり援助を申し出てくれた相手だったならあるかもしれないな。
だけど彼らはただの他校の生徒。それ以上ではない。
親が金持ちとか血筋がどうとか言われても知らないし。
「これは失礼しました。
ここは地球の日本という国にある英伝学園ですので、皆様の常識には疎かったのです。
どうかご容赦ください」
「ぷっ」
あくまで慇懃な態度を崩さずに返してあげると、姫乃がそれを見て相手に見えない様に小さく笑っていた。
それと俺の皮肉は相手にもちゃんと伝わったらしくこめかみをピクピクしている。
「我らの王貴学院も由緒ある日本の学院だぞ」
「そうですわ。こんなボロ臭い学園とはある意味違うのは当然と言えば当然ですけど」
由緒ある、ねぇ。
ちなみに王貴学院は創立12年。英伝学園は創立33年だ。
そりゃ向こうの方が新しかろうってものだろうな。
「貴様。我々を馬鹿にしているのか?」
「いえいえまさかそんな」
出来れば穏便にさっさとお帰り頂きたいと考えてますとも。
しかしはぐらかそうとした俺の態度も向こうには気に食わないものだったようだ。
「おい貴様。名は何という?」
「これは申し遅れました。私は村基 一会です」
「馬鹿者。貴様の本名などどうでも良いのだ。この学園における役名があるだろう」
どうでもいいって。
自分から名前を聞いておいてそれは無いだろう。
あー、姫乃。怒る気持ちは分かるけど抑えて。
「役名、うちでは単純にあだ名って呼んでますが。
それでいうと俺は村人Aです」
「はんっ」
俺のあだ名を聞いて鼻で笑う男子。
その反応はまぁ予想通りと言えばその通りだから別に怒る程でもない。
だけどそう思っていたのは俺だけのようだった。