185.不審者発見♪
もし183話(喫茶店の話)を読んでない方がいらっしゃったらごめんなさい。
昨日うっかり飛ばして184話を投稿しておりました。
じゃあちょっと買ってきますね~と姫乃は俺が見ていた下着をレジに持って行ってしまった。
え、いや。まぁ良いんだけどさ。
こういう時の姫乃の行動力は凄いなと素直に感心してしまう。
ただ問題は。
姫乃がレジに向かったので俺だけその場に取り残された事だ。
「あ、不審者発見~」
「いや違うから。彼女と一緒だから。自分用が欲しいとか思ってないから」
突然後ろから掛けられた声に急いで否定する俺。
その姿がよっぽど可笑しかったのか今度は笑い声が聞こえる。
というか聞き覚えのある声だな。
「ぷぷぷっ。村基くん、慌てすぎ~」
「あ、瑞樹先輩」
振り返ればそこには去年俺に告白してくれた瑞樹先輩が居た。
その隣には綾香先輩もいる。
よく一緒に居るところを見かけるし親友という奴なんだろうな。
「こんにちは。彼女とってことはデートの最中?」
「まぁそうですね」
「そのご自慢の彼女は大事な彼を置き去りにしてどこへ?」
「今はレジに。と、戻ってきましたね」
レジで買った物を受けとりながらこちらを振り返り、ちょっと驚いた顔をしつつも急ぐことなく戻って来た。
「ただいま一会くん」
「ああおかえり」
「1年上の瑞樹先輩と綾香先輩」
「こんにちは姫様」
「どもー」
「えっと、はい。一会くんがいつもお世話になってます」
挨拶を交わす3人。
というか姫乃のそれはなんか違くないか?
「聞きました奥さん。『私の一会くん』ですってよ」
いや私のとは言ってない。
前から思ってたけど綾香先輩はノリが軽いな。
ボケる綾香先輩にツッコんだり窘めたりするのが瑞樹先輩って所か。
「あ、そうだ姫様。今度村基くんの事で話があるんだけど放課後とか時間貰っても良いかしら」
「えっと苦情なら本人にどうぞ」
「いやいや、苦情とかじゃないから。それでどう?」
「分かりました。じゃあ細かい日取りはまた後でで良いですか?」
「そうね。私達もデートの邪魔したい訳じゃないし」
そういって連絡先を交換し合う2人。
その間にすすすっと綾香先輩が俺の横に来て耳打ちしてきた。
「一応聞くけど、止めなくて良いの?」
「別に。これが明日からパシリで呼ぶから電話したらすぐ来いよって話なら止めますけどね」
「ちょっとそこ。聞こえてるよ」
「あはは、ごめんごめん」
瑞樹先輩とまともに話したのは数えるくらいだけど、悪い人では無いのは分かってるつもりだ。
姫乃とどんな話をするのかは分からないけど変な事にはならないだろう。
「ところで瑞樹先輩たちも買い物ですか?」
「そそ。バレンタインの下見とかね」
「そういえば来月そんなイベントもあったな」
「忘れてました」
「「ええぇ!?」」
俺達のドライな反応に驚くふたり。
「いや村基君はともかく姫様までその反応で良いの?」
「俺はともかくなんだ」
「だって本命が貰えることはほぼ確定してる、いやしてた訳だしね」
まぁ確かに彼女が居るのに誰からチョコを貰えるかを気にしてソワソワするのも変な話か。
ただその彼女も忘れてた所を見ると貰えない可能性もあるみたいだけど。
でもま、貰えなかったから何かが壊れたりするような関係でもないし全く問題はないんだけど。
「……チョコレート要りますか?」
「別にバレンタインだからってのは無いな」
「ですよね」
そんな俺達のやり取りを見ていた綾香先輩がボソッと呟いた。
「え、なにこの熟年カップル」
「いや付き合い始めたの今年に入ってからですからね」
「えーだって会話の内容が、もう何年も付き合ってチョコレートも何度も貰ってるような、そんな奴だったじゃん」
いや「じゃん」とか言われてもなぁ。
それに俺の気のせいじゃなければチョコレートはバイト先で沢山貰う気がする。
その事にどうやら姫乃も気が付いたようだ。
「一会くん。もしかしてバレンタインの日ってバイトですか?」
「ああ。13~15日はバイトだ。しかもまたしても特別予約期間で」
「それはまた。大変なことになりそうですね」
「シフトを決めた時に店長から毎日紙袋2つは持ってこいって言われた」
クリスマスの時と同様に既に予約は埋まってたりする。
全員がキヒト様目当てのお嬢様で間違いないので本命かどうかはともかくチョコは渡されるだろう。
それが3日分って。
虫歯になるか糖尿病になるか太るか。
いずれにしてもチョコレート業者の恐ろしい罠だな。