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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第12章:望んでいた日常
183/208

183.早過ぎた

さて、出だしからデートらしいハプニングを乗り越えた俺達は次なる問題に直面していた。

それは何かというと。


「……お店、閉まってますね」

「まだ開店時間前だからな」


元々営業時間を考慮して待ち合わせ時間を決めたのに、ふたりとも30分以上先に着いてるものだからお店にも早く着き過ぎたのだ。


「ちなみに姫乃はいつから待ってたんだ?」

「言っても5分くらいしか待ってないですよ」

「そっか。でもお互いに早く来るんじゃ待ち合わせの意味がないな」


人によっては残念だったなとか、折角決めたのに無駄になったなとか慰めや不満が出そうなところだけど、俺達に限ってはそれは無かった。

意味がなかったと分かったならそれは前進だし次から良くして行けば良いのだから。


「じゃあ次からは私が一会くんの家まで行きますね」

「いやいや、そこは俺が迎えに行くよ」

「なら早く準備が出来た方が迎えに行くということで」

「それ絶対早朝から準備してスタンバってるやつだ」


何というか目に見える様だ。

お互い時間の大事さは理解してるし、相手を待たせる趣味もない。


「少しでも長く一緒に居たいから約束の時間まで待ってられないんだよな」

「そうなんですよね」


今の俺達にとって何をするでもなく、一緒に居ることが一番重要だったりする。

なので無事に合流さえ出来れば早いに越したことはない。

1秒でも早くと思った結果、日の出と共にピンポンダッシュを決めるようになりそうだな。

あ、いや。ダッシュで逃げる訳じゃないけど。


「ただそれを言ったら、デートの前日に家に泊って行けば良いじゃないかって事になりそうだな」

「そうですけど、でもそれだと出掛けずに家でまったりしてしまいそうですね」

「……確かに」


さっきのナンパ君の件があったように、外に出ると何かとトラブルに巻き込まれるからな。

だったら特別な目的が無いときは家に居た方がお互いに邪魔も入らないし楽だと思える。

でもそれだと当初のデートをするって目的が果たせないからダメか。


「ともかく立ち話もなんだしどこかお店入るか」

「ですね」


早い時間からでも営業しているところと言えば喫茶店全般はそうだ。

特にモーニングをやってる所は早いところだと朝7時から営業している。

俺達は連れ立って個人経営と思われる喫茶店へと入った。

店内は朝食の時間としては少し遅めだからだろう、そこまで混んでいない中でどことなく朝の激戦を潜り抜けた空気が漂っている。


「いらっしゃい。何にしますか?」


落ち着いた声と共に30台半ばといった女将さんがお冷を出しながら尋ねてくる。


「モーニングのホットサンドとホットミルクを」

「じゃあ私もそれで」

「はいよ。モーニングサンド2つ。ホットミルクで!」


俺達の注文を聞くとそれをその場で厨房に大声で伝達する女将さん。

それを受けて奥からも「あいよ」と野太い声が返ってくる。


「じゃあちょっと待っておくれよ」

「はい」


奥に戻って行く女将さんを見送りながら俺達は笑い合った。


「俺達のバイト先とは全然違うけどこういう型に嵌ってない応対も良いよな」

「そうですね。人情味があると言いますか、親しみを感じますよね」


チェーン店にある接客マニュアルっていうのは基本的にバイトの店員の入れ替わりが激しいことを前提に、誰がやってもお客様に不快に思われないものになっている。

その為に男女差や年齢、性格による変化を消す傾向にある。

それは決して間違ってはいないんだけど『マニュアル人間』って言葉がある様にだんだんと心が籠らないものになっていく。

だから人によっては無機質で冷たいって印象を受けてしまうけど、それが当たり前になった昨今はマイナスとはならない。もちろんプラスではないけど。

逆にこうした個人経営店では店長や女将さんもしくは亭主の人柄が何よりも評価の対象となる。

コーヒーや紅茶の味の違いが分かる人がどれだけ居るかって話だし。

少なくとも俺は気にしてない。

そして俺達の人柄に対するこの店の評価は結構高い。

料理を出すためにちらりと厨房から顔を出した亭主は、ぶっきらぼうながらも俺達を見て小さく頷いた。

それは客をただの金づるではなく人として見ている証拠だ。



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