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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第1章:姫様と村人A
18/208

18.喧嘩

舞田先生達と現場である校舎裏に向かおうとしたところ、先生に危ないから教室に行ってなさいと追い返されました。

その言葉自体は間違ってないし、私が行ったところで何かが出来る訳でもないので渋々教室に向かいました。

すると何故か既に村基くんが席に座っていました。


「よっ。遅かったな」

「遅かったって。えっ、だって村基くん、校舎裏に連れていかれたんじゃなかったんですか?」

「ああ。大した話じゃなかったからサクッと終わらせてきた」


まるでちょっと散歩してきたってノリで話す村基くん。

この様子ならさっきの喧嘩は別の人のことだったのでしょう。

そう安堵したところで舞田先生が教室に来ました。


「ここに居ましたか村人A」


怒りを通り越して憎しみすら感じる声です。

それに村人Aって。

でも村基くんはいつも通りの感じで淡々と応対しました。


「何のご用ですか?」

「ここではあなたも他の人に聞かれたくない事もあるでしょう。なので職員室に」

「いえ、俺は大丈夫です。何の御用件ですか?」


淡々と繰り返す村基くん。ってこれ、もしかして怒ってますか?

いつもより感情を消した冷たい声に聞こえるのは気のせいではないと思います。


「さきほど校舎裏で起きた暴力事件についてです」

「……あぁ。なるほど。被害者として話を聞きたいということですね?」

「いいえ加害者としてです。今保健室で何人もの生徒が治療を受けているというのによくそんな嘘が言えますね」

「俺は嘘は何も言っていませんよ」

「いい加減になさい!」


顔を赤くして怒りを露にする舞田先生に対してどこまでも冷静な村基くん。

これではどちらが大人でどちらが子供なのか分かりませんね。

それとこんなに激高していては話し合いにもならない気がします。

そこに手を差し伸べたのは、村基くんとよく一緒に居る小柄な方の男性で名前はたしか……。


「まあまあ先生。落ち着いて」

「既に生徒が何人も怪我をしているのですよ?落ち着いていられますか」

「いやいや。生徒の為に怒れるのは教師の鑑です。実に素晴らしい。

さすが我らが舞田先生です」

「は、はぁ。どうも。そういうあなたは確か」

「阿部 春明です」

「ああそうでした」


阿部くんの穏やかな口調と褒め殺しの話術によって、さっきまで怒っていた先生も少しは落ち着いたようです。

それを見計らって阿部くんは携帯を取り出しました。


「それより実は僕、ちょうど彼が校舎裏に向かったところを偶然見ていたんですよ。

ただ僕は見ての通り腕っぷしは強くないので彼らを止めることは出来ませんでしたが、代わりにその時の様子を携帯で撮影しておきました。

よかったらご覧になりますか?」

「ええ。是非」

「折角なので他の人にも見えるようにモニターに映しましょうか」


そう言って阿部くんは携帯を教室に備え付けられているモニターに接続して映像を再生しました。

映し出されたのは校舎裏で校舎の壁を背にして立つ村基くんと10人以上の男子学生。私と一緒の時に見た人も居ますが、そうでない人も居ますね。あの後から増えたのでしょうか。

それと残念なことに距離があるせいで音声はあまり拾えていないようです。

それでもいつも通り落ち着いている村基くんの姿は分かりますし、時間が経つごとに怒りのボルテージが上がって行く周囲の様子が伺えます。怒鳴り声もちょこちょこ聞こえてきます。

そして。


「あっ」


映像を一緒に見ていたクラスの誰かが短い声を発した時には、村基くんに向かって男子のひとりが殴りかかっていました。

それをギリギリのところで村基くんが避けると、勢い余って校舎の壁を殴っていました。


「うわ、痛そ~~」


赤く染まった拳を抱えて痛みに蹲る男子。

続いて他の男子が村基くんの胸倉を掴み、反対の手で殴ろうとしたところで急に村基くんが足を滑らせたせいで掴んでいた男子が引っ張られ顔面から校舎の壁に激突。鼻血が噴き出すころには村基くんは横にずれながら立ち上がっていました。

しかしそこに横合いから別の男子が殴りかかろうとして、その腕が誰かに止められました。


『だ、誰だ!?』

『一人の生徒を大勢で囲んで暴行を加えるとは許せん。

それ以上やるというなら俺が相手になってやる』

『んだと、このっ!』


男前なセリフと共に出てきたのはなんと兵藤くんでした。

そのまま乱闘にもつれ込むのかと思ったら、あっという間に兵藤くんがその場を制圧してしまいました。

村基くんは兵藤くんにお礼を言いつつ一緒にその場を去って行きました。

一部始終を見終えた私が一言。


「なるほど。村基くんからは手を出してないですね」

「そうだな。囲んでた男子たちが自滅しただけだ」

「助太刀に入った兵藤だっていじめの仲裁に入っただけだし、むしろ褒められるべきところだな」

「先生、これで村基たちを怒るのは違うと思うぜ」

「だよなぁ」


それに呼応するように他のクラスメイトも発言すれば、先生も村基くんに罪を問うのを諦めたようです。


「はぁ。なるほど。分かりました。

村基さん、先ほどは失礼しました」

「いえ、分かって頂けたなら良かったです」

「阿部さんも貴重な証拠をどうもありがとう。こちらの映像は後でコピーさせて頂いても?」

「もちろん良いですよ」


謝罪をして教室を出て行った先生を見送った私達は、ようやく人心地付きました。

私の横では村基くん達がハイタッチをしています。


「サンキュ、ハル。お陰で説明の手間が省けた」

「いえいえ。突然校舎裏に来てくれなんてメールが飛んできた時には何かと思いましたけどね。

お役に立てて何よりです」

「庸一も助っ人感謝だ」

「溜まってる恩を少し返しただけだ。気にするな」


そうか。村基くんが先生の言葉を遮ってここで話を済ませようって言い出したのも最初から阿部くん達のサポートを受けやすくする為だったんですね。

阿部くんは、何というか影が薄い方なので先生からも村基くんの友人だとは認識されていなかったようですし適任でした。

それにしても先ほどの映像にあった村基くんの動き。あれはまるで拳法の達人の老師のような動きでした。狙ってやったのだとしたら凄い事です。


「あの、村基くんは格闘技とか習われてるんですか?」

「全然。まあ無事だったのは昔取った杵柄ってやつかな」

「はぁ」


実はこう見えて村基くんは中学時代不良だったとかでしょうか。

全然想像できないですけど。



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