175.閑話~先を見届けるもの~
魔神を聖杯に封印した後、シロノは精力的に国の再建に邁進していた。
生き残った国民もそんなシロノを支え、3年が過ぎた頃には魔神の爪痕を残しつつも何とか餓死者も出すことなく年を越せるくらいまで持ち直す事が出来ていた。
そんなシロノの周りには15歳くらいの10人の少年少女が忙しそうにしていた。
彼らはシロノの子供だ。
といってもシロノが生んだ訳ではなくて孤児を引き取って育てているんだ。
自分の後継者として。
「私は新たに夫を迎える気はありません。
また血縁があるからとその者を後継者にすることもありません。
私の意志を受け継ぐ者、つまりあなた方10人の中から選べればと思っていますが、そうならない可能性もあります」
「お言葉ですが陛下。
陛下もまだまだお若いのですから、それはまだまだ先の話です」
「あら言ってなかったかしら。
国が安定してもう大丈夫だと判断したら私は隠居しますと」
「聞きましたが、あれは冗談の類ではないのですか?」
「もちろん冗談ではありません。
今のまま問題が起きなければそう、3年後くらいには隠居できそうですね」
「「えぇ~~」」
シロノの言葉にそこに居た全員が驚きと不満の声を上げた。
3年後。つまり成人して間もないのに自分たちの内の誰かに王位を継がせるというのだ。
もちろんその為に今死に物狂いで勉強し、実地で学んでいるのだけど、それでも3年は短すぎるし何より自分たちは若すぎる。
「若すぎて臣下から舐められないでしょうか」
「その者達には若さは武器であると、その行動力で示せば良いのです」
「私達は元はただの孤児です。貴族達の目はどうしても厳しくなります」
「血統だけを重んじる者には結果成果で殴り飛ばしてあげなさい」
やや過激な、しかし芯を持って伝えられる女王の言葉に深く頷く子供たち。
それを見たシロノは笑顔を作って続けた。
「それと大事な事は大勢の仲間を創りなさい。
城内の者、街の人、そして他国にも。
その人達の為に積極的に力を注ぎなさい。
そうすればあなた達が困った時に力になってくれるでしょう」
「「はい!」」
「子は親の鏡と言います。
あなた達が私利私欲にまみれば脱税や賄賂が横行するでしょう。
あなた達が平気で他人を傷付け罰するようになれば犯罪で荒廃するでしょう。
あなた達が子供から希望を奪えば再び魔神が復活し世界を滅ぼすでしょう。
それを忘れては行けません。良いですね?」
「「はい!」」
そうして3年後。
シロノは本当に後継者を指名してあっさりと引退してしまった。
世界中から歴代最高の為政者だと讃えられ、引退の日には多くの人が涙ながらに感謝の祈りを捧げたという。
その翌日。
明け方の王都を出る旅馬車にこっそり乗り込むシロノに同行したのは長年連れ添ったメイドと執事だけだった。
……
…………
………………
クリスマスからこっち、何故か見ることはなくなっていたあの夢を久しぶりに見た。
ただ以前までに見ていたのはキヒトが処刑されるところまで。
当然だ。
夢の中では俺とキヒトは同一人物なのだから処刑されて死んだ後の事なんて見れる訳がない。
それなのに今回に限ってはその後の様子だった。
まぁ夢なのだからキヒト以外になって見ていたパターンがあってもおかしくはないか。
今までは偶然無かっただけで。
「と、それより今日から新学期だ。
さっさと起きないとな」
俺は布団から抜け出して久しぶりの制服に着替えると支度を済ませて家を出た。
冬晴れの朝は空気がキンと冷えてて吐く息が白い。