172.これからの予定
お参りしておみくじ引いた後はその場で解散することにした。
屋台とかも出てるからみんなで回っても良かったんだけど、屋台は高いからなぁ。
ショバ代とか諸々考えたらそこまでボッタクリでは無いのは分かってるけど、普通にお店に行って食べた方が安くて美味いのも事実だ。
それに、俺としては今日はこの後が本番だからな。
「じゃあみんな。また新学期に会おう」
「おう、体調管理には気を付けろよ」
「最近はインフル以外にも色々出回ってますからね」
「薬が欲しかったら言ってくれ」
一応俺の家には風邪に始まり胃腸薬から各種薬は揃えてあるからな。
もっとも、特に申請は出していないから薬機法とかに認められたものではないけど。
そうして俺はさっさと自分の家に向かって歩き出した。
皆が見えなくなった辺りで手がくいっと引かれる。
横を見ればどこか不満そうに姫乃が俺を見ていた。
「帰っちゃうんですか?」
「ん?どこか行きたいところあったか?」
「いえそうじゃないんですけど。
家に帰ってそのまま今日はバイバイなんですか?」
「いやバイバイはしないけど」
「あれ?」
どうも俺と姫乃で認識が違っているらしい。
何故かと考えればすぐに思い当たった。
よく考えなくても今日は初詣に行こうって言ってただけで、この後の話を全く姫乃にしてなかったな。
この様子なら心配要らなさそうだけどもしかしたら肩透かしを食らってた可能性もあった訳か。
「念のために聞くけど、姫乃はこの後予定あったりしないよな」
「え、ありますけど?」
「え」
マジかー。
じゃあ本当に今日が決戦の日だと気合を入れてきた俺のひとり相撲?
内心がっくりと項垂れる俺を見て姫乃は面白そうにクスクス笑った。
「ふふっ。今日一日は一会くんと過ごすという予定で埋まってるんですよ」
「あ、ああ!なるほど、そういうことか」
上げて落とす、じゃない。
落ちてきたボールが天井までトスされてしまった。
ならば全力でスパイクを送るのが礼儀だろう。
「今日一日と言わず明日も明後日もそれで埋めてくれていいぞ。冬休みだし時間はある」
「それは……『今夜はおうちに返さないぜベイビー』って奴ですか?」
「どっから出てきたそれ」
急に声質を変えて顎に手を当ててニヤリと言うものだから、笑ってしまったじゃないか。
でもまぁそれもありだなと思っている俺が居る。
ただそうなるとちょっと予定を変更しないといけないな。
「姫乃。それなら一度自分の部屋に戻る?
その、色々と必要なものとかあるだろうし」
「え、やっぱり一会くんも勝負下着とか見てみたい派ですか?」
「いやいやいや。見たいけど。
そうじゃなくて歯ブラシとかな」
「あ、ああ!そうですね。確かに必要ですよね!」
一応お泊り会的な話のつもりだったんだけどな。
真っ赤になりつつ盛大に勘違いをした姫乃にツッコミを入れたけど、このままの流れに身を任せてたら勘違いでは無くなりそうな予感?を抱いた俺はもしもの為に買い物に行くことにした。
「じゃあ俺もちょっと買い物してくるから、もし先に俺の家に着いたら鍵開けて中で待ってて」
「分かりました」
部屋の鍵を渡しつつ姫乃のマンションの前で別れた俺は急ぎスーパーへと向かった。
そうして無事に買い物を終えて家に帰って来た俺は、鍵が開いてない事から姫乃はまだ来ていない事を悟った。
女の子は準備に時間が掛かるって言うからな。
こうして外で待ち続けるのは寒いし、電話してあとどれくらいで来れるか聞いてみるか。
「もしもし。あとどれくらいで来れそう?」
『あ、一会くん。ってもうそんな時間!?
ごめんなさい、何着ていくかで迷っちゃって』
どうやら俺の為におめかししてくれようとしてくれてるみたいだ。
姫乃は普段のままでも十分可愛いんだからいつもの服装でいいのに。
『……えっと、一会くん。声に出てますよ?』
「あれ、そうか。でも俺としては早く姫乃に会いたいなっていうのが本心だ」
『もう。一会くんのそういう事を平気で言うの、良くないと思います』
「じゃあ言わない方が良いのか」
『いえ、言ってくれないと寂しいのでどんどん言ってください』
どっちなんだ。
まったく女心は複雑で難しい。
「まあともかく、早めに来てくれると助かる。部屋の前でまちぼうけはちょっと寒いからな」
『え、どうしてってそうか。鍵は私が持ってますもんね。
急いで準備していきますからあと10分だけ待っててください』
「まあ慌てなくて良いから階段でころんだりしないようにな」
『そんな子供じゃありませんよ』
そんな軽口を言いながら電話を切る。
こうして姫乃と電話してただけでも暖かくなった気がするんだから不思議だよな。