17.一緒に登校
そのまま何となく村基くんと一緒に校門を通り抜けた私は、それが余りに迂闊な行為だったことをすぐに思い知らされることになりました。
今は普段よりも早い時間とはいえ、部活の朝練の時間よりも遅く、また私達以外にもこの時間に登校してくる人はちらほら居ました。
その人達の視線が一斉に私達に向けられました。
正確にはまず私を見つけて、その後に隣にいる村基くんに向けられました。
「おい、あれ姫様だよな。その隣にいる男子は誰だ?」
「パッとしない見た目だし王子とかでは無さそうだな」
「とすると従者か?いや、それなら姫様のお鞄を預かりつつ3歩後ろを歩くはず」
いえ、3歩下がるのは確か弟子が師匠の影を踏まない様にする為じゃなかったでしょうか。
そもそも村基くんは従者でも何でもないのですけど。
そう思っていたら何人もの人たちが私達を取り囲みました。
「おはようございます姫様。隣の男子は姫様の従者ですか?」
「え、いえ。違いますけど」
「ではまさか、か、か、彼氏であったりは……」
「しませんよ」
ちらりと村基くんを見れば頷かれたので分かってはいましたが、彼に変な誤解はされていません。
私と村基くんは簡単に言えば推定ご近所さんでクラスメイトで隣の席の住人です。
決して付き合っているなんて事はありません。
ありませんが、もうちょっと言い方があったのかもしれませんね。
私の回答を聞いた彼らは一様に安堵のため息を吐き、村基くんに向き直りました。
「おい貴様、話がある。ちょっとそこまで付き合ってもらおうか。
なあに、素直に言う事を聞けば大した時間は取らせん」
「え、あの。ちょっと」
「姫様。申し訳ございませんが、これはこの学園の伝統に関わることですので。
どうか姫様はそのまま教室へとお進みください」
「でも」
村基くんを取り囲んでいる人たちは何とも物々しい雰囲気で、このまま校舎裏に村基くんを連れて行って集団暴行を加えるんだと言われても納得できるレベルです。
これはどうにか止めないと。
と思ったところでいつも通りの調子で村基くんが私に話しかけてきました。
「ああ、大丈夫だ藤白さん。
いつかはこういうのが来る気はしてたし、それがちょっと早まっただけだ。
まあ命まで取られることは無いだろうし心配しなくていいよ」
「そう、なんですか?」
「ああ。だから藤白さんは彼らの言う通り気にせず教室に行ってて」
「わ、分かりました」
私の目には一触即発にしか見えない状態ですが、でも私がここに居ても出来る事はありません。
私はその場を後にすると急ぎ校舎に入り職員室を目指しました。
えっと担任の舞田先生は、居ました。
「あの先生」
「あら藤白さん。おはようございます」
「おはようございます。
って呑気に挨拶してる場合じゃないんです。大変なんです」
「まあまあ落ち着いて。何があったんですか」
「それがその、先ほど村基くんと一緒に登校してきたのですが、校門を抜けたところで周わりの生徒に囲まれて、何か話があると村基くんを連れて行ってしまったんです」
私の言葉を聞いて少し考える舞田先生。
数秒考えてやっと問題点に気が付いたと言った様子です。
「村基さんというのはあなたの隣の席の男子ですね?」
「はい」
「それは困りましたね」
「ええ、だから助けに行かないと!」
「いえ。困ったのはあなたの事です。藤白さん。いえ『姫様』」
「え?」
なぜか叱る様に私を見る先生。
呼び方も敢えてあだ名で言い直したことに何か意味があるのでしょうか。
「この学園は伝統ある由緒正しき学園です。
ここに通う生徒の中で名誉ある尊称で呼ばれる人はその伝統を背負う立場にあると言っても過言ではありません。
『姫様』と呼ばれるあなたもその一人です。まずはその自覚をお持ちなさい」
「はぁ」
いや突然伝統を背負ってるんだとか言われても。ねぇ。
別に私が自分で名乗りを上げた訳でも無いんですけど、勝手に変なのを背負わせないでください。
「そのあなたが、尊称どころか蔑称とも言うべき『村人A』などと呼ばれる生徒と一緒に登校した。
これは名誉ある称号に泥を塗るにも等しい行為なのです。
それをきちんと理解し、今後は節度を持って行動して頂かなければ。
その村人Aを連れて行った生徒たちもその事を彼に伝える為に連れて行ったのでしょう。
ですから心配要りません」
「そんな、先生は生徒を差別するというのですか!?」
先生の言葉に怒りを覚えた私は反論しようとして、しかし突然職員室に駆け込んできた人が大声を上げたことで止められてしまいました。
「大変です。校舎裏で生徒が喧嘩をして10人程が保健室に担ぎ込まれました!」
「なんだって!?」
何人かの先生が慌てて職員室を飛び出していきます。
校舎裏……まさか村基くんがさっきの人たちに暴行を受けたのでしょうか。
でもあれ?
だとすると10人っていうのは変、ですよね。
(人を1つの側面からしか見てないのに全てを知った気になる奴ってのはいる。
一番楽な対処法は、そう言う奴には近づかないことだ。
それが無理なら別の側面から殴り飛ばすのが手っ取り早い)
まさか村基くんひとりで10人を倒した?
それこそまさかですよね。
いつもありがとうございます。
お気づきの方も居るかと思いますが舞田先生の名前の元ネタは「まいっちんぐ」です。
プロット段階では性格もそれに近づける予定だったのですが、なぜか逆三角メガネが似合いそうなキャラになってしまいました。