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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第11章:ハッピーホリデーズ
169/208

169.決戦は来年に

結局ケーキは3/4を食べた所でお腹いっぱい、というか夜10時を回って甘味を食べると、特に冬休みは動かないのに大変らしい。

って、そうか。


「ちょうど良い時間だし音楽でも聞こうか」

「何か音楽番組やってましたっけ」

「まあな」


携帯を操作してお目当てのチャンネルを開く。

時間的にもう1曲目が終わった頃だけど、視聴者数は25万人か。

普段そこまで積極的に活動してないのにこの人数は凄いな。


『続いてのリクエストは【また君に逢いに行く】です』

「あ、この声ってもしかして謡子ちゃん?」


そう。

ハルは自室を防音にしたり色々設備を整えて簡易なスタジオ化した後、こうして魚沼さんの歌手活動を応援している。

多分今もふたりでこの放送をやってるんだろう。

クリスマスイブに何をしてるんだという気もするけど、よく考えれば今ふたりはハルの部屋で一緒な訳で、放送が終わった後に打ち上げ兼クリスマスパーティーをするのだろう。

その後どうするかは俺がどうこう言う事でも無いか。


『私この歌大好きなんです。特に歌詞の、

【たとえ死んでも何度でも生まれ変わってまた君に逢いに行く。その時はまた君を好きになる】

っていうフレーズ。

それくらい彼から愛してもらえたら幸せですよね』


情感たっぷりの歌声と一緒に伝えられる言葉に共感コメントが大量に付けられていく。

ふと見れば姫乃もちょっと目が潤んでるな。どうやら歌声にあてられた様だ。


「謡子ちゃんの歌、初めてカラオケで聞いた時よりずっと素敵になった気がしますね」

「だな。やっぱり本物の恋を知ったから感情の入り具合が違うんだろう」

「そうですね。でも私はこの歌詞は嫌いです」

「?」


言葉を止めた姫乃はじっと俺を見て、そして。


「私はやっぱり好きな人には生きていて欲しいです」


その言葉には不思議な重さがあった。

それこそ姫乃が誰か大切な人と死に別れた経験があるんじゃないかって程に。


「死なないでくださいね。

一会くんは私より長生きしてくれないとイヤです」


あまりに真剣な表情と合わさって、俺は目を逸らすことも出来ずただ頷き返す以外に無かった。

だけどそう言う事なら俺も言っておかないといけない事はある。

なにせ夢の中の俺(キヒト)は他に手が無かったとはいえ最愛の女性(シロノ)に後を託して先に死んでしまったのだから。


「分かった。ただその代わり姫乃も後80年くらいは元気に生き続けてくれよ。

俺はきっと姫乃が隣で幸せそうに笑っててくれないと生きていけなくなっちまったからな」


あのVR空間で俺の胸に芽生えた心はきっと姫乃が居てくれないと枯れてしまうだろう。

姫乃の笑顔が栄養であり恵みの水で、他の人で代用はしたくないしできない。

ただでも、やっぱり最近の、特に今日の姫乃は何と言うか破壊力があり過ぎて困る。

いったい誰の入れ知恵かは知らないけどここまで積極的に来られると抑えが効かなくなりそうだ。

せめて落ち着いて顔を見れるようになるまでは待ってほしい。


『明日を無事に迎えられる保証が何処にある』


確かにそうなんだけどな。

だから出来るだけ早く何とかしないと。

姫乃を待たせるのも悪いし。

そして気が付けば時刻は22:30を過ぎた。

これ以上遅くまで女の子の家に居るのは良くないだろう。


「じゃあぼちぼち帰るよ」

「え、帰っちゃうんですか?!」


何故そこで驚くかな。

それじゃあまるで泊まっていって欲しいって言ってるようじゃないか。

流石の俺でもそこまで行くと自制を止める自信がある。

それに。


「今日はキヒトとして来てるからな。

深夜にお嬢様の部屋に居るのは執事として御法度なんだ」

「じゃあ一会くんとしてなら?」

「その答えはまた今度な」

「今度っていつ?」


なおも言い募る姫乃に答えに詰まっていると、姫乃は申し訳なさそうに俯いてしまった。


「ごめんなさい。

こんなこと言われたら迷惑でしたよね」


いや、そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。

だから俺は姫乃の頭をぽんぽんと撫でた。


「迷惑なんて事はないよ。

むしろ俺の方がヘタレでごめん。

……そうだな。来年まで待ってくれ」


それを聞いた姫乃はまた俺の事を潤んだ瞳で見つめてきて、って、だからまずいんだって。


「そうだ。クリスマスプレゼントがあるんだった」


慌てて距離を取った俺は鞄からお目当ての小袋を取り出すと姫乃の手に乗せて、姫乃がそっちに気を取られてる隙に玄関へと向かった。


「じゃあ風邪とか引かないようにな。

よいお年を!」

「一会くん。また連絡するから」

「あいよ」


さっと手を振って外へと出た。

不思議と寒さは感じなかった。


~ 姫乃 Side ~


一会くんが部屋を去った後、プレゼントの袋を開けてみました。

中から出てきたのはクッキーです。

そう言えば掲示板でも「キヒト様が手作りクッキーをプレゼントしてくれた」って書いてましたね。

ただそこには動物の形をしたクッキーだって書いてありましたが。


「……ハート形、ですね」


もしかして最初から私に渡すために用意してくれていたんでしょうか。

それなら無理に待ち伏せしなくても会いに来てくれたのかもしれませんね。

でも今は初心というかヘタレ全開の一会くんですから(あれはあれで可愛いのですが)、クッキーだけ渡してすぐに帰ってしまっていたかもしれません。


「というか、ここまでして何もせずに帰るって」


私の好意が伝わってるなら抱きしめるくらいしてくれてもいいのに。

あ、でも、頭撫でてくれたのはほんと久しぶりでしたね。

あれだけで心が幸せで満たされてしまうのですから私も困ったものです。

それと帰り際に来年まで待ってって言ってましたよね。

つまりあと7日ちょっと。


「もう~幾つ寝ると~……かぁ」


もちろん年が明けたらすぐにって意味で言った訳では無いのは分かってます。

でも、ちょっとだけ期待しても良いですよね?

はぁ。こんなにも新年が待ち遠しいのは生まれて初めてです。


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