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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第11章:ハッピーホリデーズ
168/208

168.キヒトの攻撃(返り討ち)

姫乃に引っ張られるようにして付いてきた俺は、部屋に入った所で立ち止まった姫乃を見て少しだけ冷静さを取り戻していた。

どうやら勢いでここまで来れたけど、この先どうするかは考えてなかったってところかな。

ならまぁキヒトとして招待された訳だし、あまり格好悪い所は見せられないな。


「姫乃、ちょっと失礼するぞ」

「え、ひゃっ」


一言断ってから、姫乃の身体に身を寄せつつその背中と膝裏に手を差し入れて姫乃を持ち上げた。

今日一日でだいぶ慣れたお姫様抱っこだな。

突然の事に驚く姫乃だったけど、ここまで強引に連れてこられたのだから今度は俺のターンだ。


「はい暴れない」

「え、あのでも」

「落ち着いて俺の首に手を回して。そう」


元々、多少暴れても落とす気なんて無かったけど、姫乃からも掴まって貰ってより安定した。

と、そこまでは良かったんだけど。


(これ顔近いな)


姫乃の顔がまさに目と鼻の先だ。

ちょっと顔を下げれば唇が触れ合いそうなんだが。

少し潤んだ瞳に見つめられて目が離せなくなる。

だけど指名されたからには今は執事キヒトだ。

そう自分に言い聞かせることで俺はなんとか理性をフル動員して足を前に出した。


「ではお席までご案内致しますね」

「は、はぃ」


消え入りそうな返事を聞きながら部屋の中を進み、一瞬このままベッドに連れていくかという悪魔の囁きを振り切って、ちゃぶ台横の座布団の上に姫乃を下ろした。


「それでホットの紅茶でよろしいですか?」

「はい。って私が」

「良いから座ってて」


初めて入った部屋とは言え、一人暮らし用の1kマンションだ。

キッチンの構造は普通だったし迷うこともない。

電気ケトルで2人分のお湯を沸かしつつ、ケーキをカットする。

引き出しから紅茶のティーバッグを取り出して適当なカップを2つ取り出してお湯を注げば準備完了だ。


「お待たせ致しました」

「……」


紅茶とケーキを持って姫乃の所に戻れば、姫乃は俺の顔を見てぼーっとしていた。

やっぱり髪型とかセットしてない状態で執事は無理があったかな?

そう心配になった所で姫乃がぼそっと呟いた。


「掲示板の話は誇張じゃなかったんですね」

「掲示板?そう言えば炎上してるとか言ってたっけ。

ともかく、はい、あーん」

「あーん。んん!?」


フォークで1口分のケーキを掬って姫乃の口元に持っていけば、ごく自然に食べてからやっと驚いて照れる姫乃。

どうやら心ここにあらずな状態は継続中らしい。


「い、一会くん!」

「今はキヒトです」

「どっちでも良いけど自分で食べれます!」

「だけど残念。フォークは1本しかなかったんだ」

「い、言われてみれば」


冷静に考えれば、別にフォークじゃなくても箸でもケーキは食べられる。

だけど姫乃に冷静になられると多分俺の方が冷静でいられなくなるからな。

ここは押せ押せで行かせて貰う。


「はい、もう1口。

それで、掲示板にはなんて?」

「もぐもぐ。あ、そうでした。

それが今日のキヒトさんはいつもより5割増で魅力的だって。

もしかして恋人が出来たんじゃないかって」

「こっこいびと!?」

「隙あり!」

「しまった」


まさかの恋人疑惑に驚いた隙を突かれてフォークを奪われてしまった。

姫乃はこれで形勢逆転と言わんばかりにケーキを掬い上げて俺の前に差し出した。


「はい、あーん」

「って大きくないか!?」


4等分に切り分けたうちの1つを丸々差し出されたんだけど、これを食えと?


「大丈夫行けます行けます。

キヒトさんの格好いいとこ見てみたいなぁ」

「ぐっ」


キヒトとしてはお嬢様の要望は極力叶えないといけない。

そしてこれはバラエティー番組で時々見掛けるネタだし出来なくはない。

まぁキヒトのキャラに合ってるとは言いがたいけど。


「ええい、ばっち来い」

「うんっ。では遠慮なく~~」

「あー、もがっ、おごっ」

「あはははっ。ほら頑張ってください」


笑いながらケーキを口の中に詰め込んでくる。

俺はやっとの思いで呼吸をしながら何とか咀嚼すら難しいそれを飲み込んでいった。


「……ごくっ。はぁ、はぁ。死ぬかと思った」

「人間やれば出来るんですねぇ」


自分でやっておいて酷い言い草だ。

でもお陰でちょっとだけ空気が軽くなった気もする。



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