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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第11章:ハッピーホリデーズ
167/208

167.デリバリーサンタ

21時を回り、ようやく最後のお嬢様が店を後にした。

休憩なしで10時間以上動き回るのは流石にしんどいな。

それもこれも研修のせいでクリスマスイブ直前の数日にバイトを入れられなかったからだけど。

俺以外のスタッフもそれなりに常連客を抱えているけど、今日を含めて数日に分散するように根回しをしたお陰で俺とは違ってちゃんと休憩する余裕を持てていた。


「キヒト君。ちょっと良いかな」

「はい?」


着替えを終えてロッカールームから出ようとしたところで店長に呼び止められた。

珍しいな。

ここの店長は几帳面というかこういう業界にしては珍しく堅気な人だから就業時間外で何かさせられることは今まで無かったんだけど。


「今日はお疲れ様。来てくださったお客様の反応も良くて、この様子なら今日1日だけでかなり君の株が上がっただろうね。

これでうちも売り上げアップ間違いなしだろうし、何なら明日から席が足りなくなるんじゃないかと心配になるほどさ。

ただそうなると良い事ばかりじゃなくてね」

「何かありました?」

「裏口。多分君の出待ちをしている女の子で溢れてるよ」

「そんなにですか」


今までも数人程度は店の裏口付近でスタッフの出待ちをしている女性を見かける事はあった。

言っても、私服に着替えて髪型とか普通に戻した俺がキヒトだってバレたことはない。

他のスタッフは敢えて見つかってこっそり密会してる場合もあるそうだけど。

こうやってわざわざ忠告してくるって事は、ねずみ1匹抜け出せない包囲網が敷かれているのか。


「やっぱりお姫様抱っことクリスマスプレゼントはやりすぎでしたか?」

「ははは、むしろそれはおまけみたいなものだけどね」

「はぁ」


おまけ?

他に何か仕出かしただろうか。心当たりが無いんだけど。


「ともかく裏口がダメなら正面から堂々と、ということでね。

これに着替えて。ついでにこのケーキは僕からの差し入れだ。

今日一日休憩もなく拘束してしまったお詫びに彼女と一緒に(・・・・・・)食べてくれ」


渡されたのはサンタの衣装(白い髭つき)とクリスマスケーキだった。

何やら妙な言葉が聞こえた気がしたけど、店長は言うだけ言ってさっさとホールに戻ってしまった。

俺は今着ている服の上からサンタ服を着ることで若干ふくよかなサンタへと変身した。

これなら俺の事を気付く人はまず居ないだろう。


「メリークリスマス♪」


店内を元気に挨拶しながら通り抜けて外に出た。

店内に居たお嬢様方も何かの催し物だと思うだけでそこまで気にしなかったようだ。

どうやら店長の作戦は大成功みたいだな。


「こんばんわ、村人サンタさん」

「!!??」


店を出てすこし歩いたところで聞き覚えのある声に呼び止められた。

振り返れば厚手のコートに身を包んだ姫乃がジト目で立っている。

て、店長。あっさり見破られたんですけど?


「ちょっと驚きすぎじゃないですか?」

「め、メリークリスマス」


不満を言う姫乃に何とか挨拶を返した。

自分の事ながら姫乃の声を聞いただけで心臓が飛び跳ねるのは何とかならないものか。

先日までの病的な痛みとはまた違う大変さがある。

ただそれよりもだ。


「今夜はこの辺り余り治安が良くないから早く帰るぞ」

「はーい」


浮かれた気持ちを落ち着けてチラリと周囲を警戒する。

ささっと歩き出せば姫乃もすぐに俺の横に並んできた。

この辺りは普段は深夜にならなければ何も問題ないけど、イベントのある日は酔っ払いが増えるし、特に今夜は彼氏彼女が欲しいけど居ない人達が街に溢れてるからな。

姫乃みたいな可愛い女の子が一人で歩いてるとまず間違いなく絡まれる。

まだ21時過ぎとはいえ油断はしない。


「それで?

今まで姫乃が俺の出待ちをすることなんて無かったと思うけど、何かあったのか?」

「うん、まぁ。一会くんはまだ見てないと思うけど、某掲示板とかが大炎上してるんですよ」

「っぽいな。お陰で裏口から出れずにこの格好だ」

「ふふっ、白ひげも似合ってますね」

「そりゃどうも」


本気か分からないけど声を聞く限り楽しそうで何よりだ。

ともかく姫乃を家まで送るか。

自分でもちょっとぶっきらぼうかなと思いつつ無言で少し前を歩いてると姫乃が周りを見ながら小声で話しかけてきた。


「改めて見てみるとカップルって意外と少ないんですね」


今は大通りを歩いていて周囲にもちらほらと人が居るが、確かに男女2人組は見える範囲で2組だけだ。

残りは女性どうし、もしくは男女混合の10人グループとかだ。

後者は飲み会の帰りなのか男性が若干騒がしい。

ただそうした人達も住宅街までくるとほとんど見掛けなくなる。

そして特に話もなく姫乃のマンションの前に着いてしまった。


「じゃあ風邪引かないようにな。

あ、それとこれをやる」

「これは?」

「見ての通りクリスマスケーキだ。

俺一人で食うには大きすぎるからな」


細身とは言え女子なら甘いものは別腹だろう。

そう思ってケーキを差し出したら、姫乃から思いもしない依頼をされた。


「えっと、キヒトさんの出張デリバリーをお願いします」

「は?」

「はい拒否されなかったので決行です」

「ちょ、まっ」


姫乃はケーキを受け取る代わりに俺の袖を引っ張ってマンションへと入っていった。





『恋人がサンタクロース』って歌がありますが、あれはサンタが女性を連れ去って行くので立場が逆ですね。


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