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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第11章:ハッピーホリデーズ
166/208

166.お1人様クリスマスイブ

いつもお読みいただきありがとうございます。

予告通りこの章は若干暴走気味かもしれません。

恋愛ものとしてはむしろイチャラブ要素があって正解なのでしょうが……

~~ 一会 Side ~~


研修を終えて帰って来た俺を待ち構えていたのはクリスマスイブという名のイベントだ。

日本人っていうのは不思議なものでクリスマスよりもその前日という意味のクリスマスイブばかりを祝う傾向にある。

いや、祝うというのも違うのか。

そういうイベントを名目にお祭り騒ぎをしたりデートに誘う口実に使いたいだけなんだと思う。

実際の所、クリスマスを正しく理解している日本人は何割くらい居るんだろうか。

と、それはさておき。

俺の感情なんてお構いなしにケーキ屋もそして執事喫茶もクリスマスイブは書き入れ時だ。

曰くお1人様のお嬢様で俺のバイト先も大勢の女性で賑わっていた。

普段はしていないが今日ばかりは多くの席が予約席としてキープされている。

常連のお嬢様はここぞとばかりに推しを指名して予約しているようだ。

そしてキヒトへのご指名も。


「お帰りなさいませ。お嬢様。

今日はまた一段と素敵ですね」

「は、はい❤」

「あ、ありがとうございまぁす♪」


1組目のお嬢様は女子大生の2人組。半年前から毎月欠かさず来てくれる方だ。

いつものように入口で出迎えたんだけど、今日はなんというかお嬢様方のリアクションがいつもと違うせいで対応に少し困る。

何というか3割増し、いや5割増しで熱のこもった視線と表情なのだ。

これがクリスマス効果というものなんだろうか。

だからこちらも多少エスコートの方法を変えてみている。


「いつものようにお席までお手を引いて差し上げれば良いでしょうか。

それとも何かリクエストはありますか?」


まさか俺が対応を変えるとは思っていなかったんだろう。

若干目を丸くしたお嬢様は一瞬考えて、恐る恐る尋ねて来た。


「あの何をお願いしても大丈夫なんですか?」

「私に出来る範囲であれば」

「ならその、お姫様抱っこでお願いします!」

「あ、ずるい。なら私も!!」

「畏まりました。ではお一人ずつ順番にご案内いたしますね」


リクエストに応えて10メートル足らずの距離をお姫様だっこでお連れする。

それを見た他のお嬢様から感嘆のため息が聞こえてくる。

男の俺からするといまいち良さが分からないんだけど、ここまで周囲が反応して、なおかつ抱っこされているお嬢様が顔を赤らめて嬉しそうにしている事から女性には素敵な行為なのだと思う。

無事に席までご案内した後は注文された品をお出しして、更に今日だけの特別サービスを提供する。


「お嬢様。よろしければこちらを」

「あの、これは?」

「私からのほんのささやかなクリスマスプレゼントです」


子供の手に乗るサイズの包みをお嬢様それぞれに手渡す。

重さも全然無くて振ればきっとカサカサと何かが擦れる音がするだろう。


「開けてみても良いですか?」

「もちろんです」


恐る恐るリボンを解いて中身を1つ取り出してみれば、若干不格好な犬や猫の形をしたクッキーが出てきた。

所々焦げ目も付いてるし、正直お世辞にも売れる出来ではないと思う。


「市販のものに比べると形とか整っていませんが味見はしてありますのでご安心ください」


続けて言った俺の言葉にピタリとその手が止まる。


「え、ということはキヒト様の手作りクッキー?」

「飲食店で食べ物をお渡しするのはあまり良くないので食べるのは帰ってからにして頂けると助かります」

「ヤバい。こんなの永久保存ものだよ」

「いえあの、焼き菓子ですので多少日持ちはしますが風味が落ちる前に食べてくださいね」

「はい。ひとつひとつ大事に頂きます」

「ありがとうございます」


嬉しそうに鞄に仕舞う姿を見届けた俺は一言断って次のお嬢様を迎えに行く。

今日は1席45分なのだけど、忙しい時間は30分ずらしてもう1組予約が入ってるんだ。

朝一は9:00と9:30にそれぞれお迎えして、9:45と10:15にお見送りをして、また10:00と10:30に次のお嬢様をお迎えする超ハードスケジュール。

もちろん直接応対していない時も見られているので一瞬たりとも気が抜けない。

しかもなぜか全てのお嬢様がお姫様だっこを求めて来るものだから腕がパンパンだ。



今回は閑話は姫乃だけど本編は一会です。


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