165.閑話~シロノからのアドバイス~
それは一会くんを助けた後のVR空間からログアウトしようとした時の事です。
私は確かにログアウト操作を行ったはずなのですが、気が付けば私は真っ暗な空間に立っていました。
どことなくログイン直後の宇宙空間に似ていますが星ひとつ無いところを見るとまた別の場所のようです。
(え、もしかして今度は私だけログアウト出来ずに取り残されたとか?)
そう不安になったところで目の前にどこか見覚えのある女性が現れました。
純白のドレスを身に纏ったその人は、夢の中で何度も見た、正確には鏡に映った姿をですが、シロノその人でした。
ただ私が知っているシロノよりも少し歳をとっている印象です。
『ごめんなさい。驚かせてしまったかしら。
帰ってしまう前にちょっとだけ伝えたい事があったからここに立ち寄ってもらったの』
「はぁ」
この言葉から察するに、この後は普通にログアウト出来そうです。
ちょっとだけ安心した私は改めて彼女と向かい合いました。
「えっと、シロノさん、ですよね」
『ええ。こうして夢を通じて別の世界の私とお話出来るのは不思議な感じね』
夢……そうか。
普段私が夢でシロノさんの過去を追体験しているように、シロノさんにとってはこれが夢なんだ。
そんなことが本当に可能なのかは分からないけど、向こうは魔法も神様もなんでもありの世界だからこういう事も出来るのかもしれないですね。
『それにしてもヒトエ君でしたか。
キヒトに似ているようで、でもやっぱり別人なのですね』
そう笑って言うシロノさんはその後小声で「キヒトの方が格好いいし」と呟いてるけどバッチリ聞こえてますよ?
だけど私から見たら一会くんの方が良いと思います。
あの優しい眼差しと手の温もりは例えキヒトさんにだって負けません。
『と、ごめんなさい。あまり時間はなかったんだわ』
「そういえば何か伝えたい事があるとか」
『そうなの。いい、良く聞いてね。
キヒトもそうだったけど、男はヘタレよ!』
ヘタレって。
まさか本物のお姫様のシロノさんからそんな言葉が飛び出してくるなんてビックリです。
『もっと言えば女の子の夢や希望をぶち壊す朴念仁だし、勝手に自分ひとりで無理難題を背負って勝手に私の前から居なくなるような馬鹿なのよ』
それ多分キヒトさんの事ですよね。
夢で見た限りキヒトさんって結構早い段階からシロノさんの事を好きだったように見えたけど、結局告白しないまま魔神との最終決戦に臨んで、その恋心を武器として魔神に砕かれ、魔神を封じる器になったり更に弱体させる為に自分ごと処刑させるなんて暴挙に出て。
夢の中では気丈に振る舞っていたけど、シロノさんがどれ程悲しかったのか今の私では分かるなんて口が裂けても言えない程でしょう。
『だからお姫様は白馬の王子様なんて待っていてはダメ。
王子様を見つけたら首に縄を掛けてでも捕まえて、積極的にアタックするのよ』
「随分と過激なお姫様ですね」
『それくらいしないと男っていうのはプライドとか恰好ばかり気にして動かないのよ。
いざとなったら既成事実を作っても良いんじゃない?
彼ならきっとデキちゃったとしても逃げずに向き合ってくれるわ』
「でき……」
また大胆な。王家の情操教育は一体どうなっているんでしょうか。
でもここまで本気で言うのはシロノさんもそうしておけばよかったと思ってるからでしょうね。
私はきっと赤くなった顔で頷いていると、一瞬シロノさんの姿がぼやけた。
『あ、もうそろそろ時間ね』
どうやらタイムリミットらしい。
と、そうだ。
夢だと一方的に見るだけだったし、もし仮に話が出来るなら聞いてみたい事があったんでした。
「あの、最後に一つ聞いても良いですか?」
『何かしら』
「やっぱりキヒトさんと一緒になれなかった事を後悔してますか?
世界とか魔神とか無視してでもキヒトさんと添い遂げたかったって思っていますか?」
私の言葉を聞いたシロノさんは、ちょっと驚いた顔をした後、優しく笑った。
『大丈夫よ。後悔はしていないわ。
私も彼も、もしやり直せても同じように行動したと思うし。
それに……』
「それに?」
『あ、いけない。あの人が起こしに来ちゃったわ。じゃあ頑張ってね!』
そう残してシロノさんの姿は完全に消え、同時に私もログアウトしていった。
目が覚めればシロノさんの事は夢のようにぼんやりとしか思い出せなくなってしまった。
なによりそのすぐ後の一会くんのおむつ姿がインパクトが大きくて。うん。