163.最後の一仕事
無事に魔神の封印の地を攻略した俺達は、その場でログアウトしても良かったんだろうけど、あと1つだけやることが残ってたのを思い出したので、姫乃にはちょっとだけ俺の我儘に付き合ってもらう事にした。
「あの一会くん。ここは?」
「村だな」
「それは見れば分かります」
「まあまあ、姫乃は一緒に居てくれたら大丈夫だから」
「はぁ」
姫乃はきょろきょろと珍し気に村の様子を観察している。
でも姫乃の祖母が住んでる村も同じくらい田舎だから別に珍しがることも無いと思うんだが。
ともかくこのままだと迷子になりそうな気もしなくもないのでその手を掴んでさっさと目的の家へと向かった。
「ただいま」
「おう。良く帰ったな、なあぁぁぁぁぁ!?」
俺の顔を見て、続いて隣の姫乃を見た瞬間、父さんは化物でも出たかのように驚いていた。
更に慌てて奥の部屋へ飛び込んでいく。
「母さん、母さん。大変だ!!」
「なんだい騒々しい」
奥から出てきた母さんは、これまた俺の顔を見て、姫乃の顔を見て。
しかし父さんと違うのは全く動じてないところか。
「おかえり。隣の別嬪さんはお嫁さんかしら。式はもう挙げたの?孫の顔はいつ見れるのかしら!」
違った。母さんも内心、舞い上がってるな。
ついでに母さんの嫁発言を聞いて隣で姫乃が真っ赤になって固まってる。
こりゃさっさと逃げ出さないと大変なことになるな。
「父さん、母さん。俺達はまたすぐに出ないといけないんだ。
今日は顔見せというか、ふたりの息子は元気でやってるぞって伝えたくて立ち寄ったんだ」
「くっ。でかしたぞ。流石俺の息子だ!」
「そうかいそうかい。良かったわねぇ。
あなたも。うちの息子を見初めてくれてありがとうね」
「いえ、あの」
ふたりとも心底嬉しそうにしていて、今更違うんですとは言えない姫乃。
騙し打ちみたいで申し訳ないが、ここだけの話なので見逃して欲しい。
「じゃあまたな」
「おう。あまり嫁さんに苦労させるなよ」
「孫が出来たらすぐに連絡頂戴ね」
嬉しそうに手を振るふたりに応えながら俺達は揃って家を後にしてそのままログアウトした。
…………
目を開ければそこはVRマシンの中だった。
どうやら無事にリアルに戻ってこれたみたいだな。
装置を出ようとしたところで、すぐさま所長たちに囲まれてしまった。
「おお、村人A。無事だったか。身体に違和感とかはないか?」
「えっと、はい。大丈夫です。ご心配をお掛けしました。
ところで姫乃は?」
「藤白さんなら隣のマシンだ。君とほぼ同時にログアウトしたぞ」
その言葉の通り、隣のマシンから上半身を持ち上げた姫乃がこっちを見ていた。
「一会くん。無事にログアウト出来たんですね」
「ああ、姫乃のお陰だな。ありがとう」
姫乃にお礼を言いつつ、その顔を正面から見返す。
思えばこうして姫乃の顔を真っすぐ見るのは多分芸術祭の劇の時以来か。
劇の時はこれは芝居だって言い聞かせてたから何とかなったものの、その後はチラッと見るのが精々だった。
だからだろうか。
姫乃の笑顔がいつにもまして魅力的に見え……みえ……。
「えっと……一会くん?」
「……」
スパンと後頭部が叩かれて漸く我に返った。
振り返ればスリッパを持った所長が鼻息を荒くしている。
「こら。突然ふたりの世界を作ってんじゃない。このオムツ少年」
「痛いじゃないか所長。ってオムツ少年?」
言われて下を見れば、なぜかズボンもパンツも脱がされて代わりにパンポースの大人用おむつが装着されていた。
「装置の中で漏らされても困るのでな。
ちなみに着替えさせたのは向井だ」
「ふふっ、なかなかに結構なものをお持ちですね」
「ソレハドウモ」
確かにお漏らしするよりかはマシだろうけど、年上のお姉さんに微妙に嬉しそうに言われて喜ぶ性癖はない。
って、姫乃もわざわざ覗き込まなくて良いから。
俺のおむつ姿なんて見ても楽しくないだろ。