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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
162/208

162.その胸に芽生えるもの

再び目を開けてみれば、目の前には心配そうな姫乃の顔があった。

今にも泣きだしそうな顔で俺の事を見下ろしているところを見るとかなり心配させてしまったみたいだな。

……見下ろす?

それに後頭部から伝わるほんのり温かくて柔らかい感触は、もしかしなくても膝枕だな。


「えっと、おはよう」

「良かった。突然倒れるからびっくりしました」

「ごめんな。で、俺は何分くらい寝てた?」

「10分くらいですね。

それで気分はどうですか?もう起き上がれます?」

「あーうん」


姫乃の問いかけに思わず言葉を濁してしまった。

ここでもうちょっと膝枕を堪能したいとか言ったら怒られるだろうか。


「ちなみになんで膝枕?」

「それはその、男の子を癒すならこれが最適だとアドバイスを頂きまして」

「うん、とっても癒されてます」


何処の誰かは知らないけどグッジョブだ。

幸せな柔らかさと温もりと、あと姫乃のいい匂いがして実に極楽だ。

それにこうして間近で姫乃を見ていても、さっきまでの胸の痛みはやってこない。


「って、そうだ。胸の傷はどうなってるんだ?」

「それなんですけど一会くん。何かが胸から飛び出してきてるんですけど、大丈夫ですか?」

「んん?!」


少しだけ頭を上げて自分の胸元を見ると、確かに何かが突き出ている。

さっきキヒトは春になれば芽が出るって例えをしていたけど、植物っぽくはないな。

どちらかというと金属っぽいというか、あれだ。


「姫乃。ちょっとそれ掴んで引き抜いてくれないか?」

「え、大丈夫なんですか!?」

「ああ。今の所は痛みとかないし、姫乃に抜いて欲しい」

「分かりました」


意を決した姫乃がそれに手を掛けて引っ張る。

するとどうやって仕舞われていたのか、スルスルと姿を現したのは刃渡り60センチくらいの小太刀だった。

まるで手品のような出来事に目を丸くする姫乃に悪戯っぽく問いかけてみる。


「えっと、世界でも革命してみる?」

「いやしないですからね」


そんな馬鹿な事を言ってる間に俺の胸にあった傷は跡形もなく消え去っていた。

もう用済みって事なんだろうけど、芽吹きどころかこんなデカいものが飛び出そうとしてたらそりゃ激しく痛みもするだろう。

姫乃から抜いた小太刀を受け取ると全身がほわっと温かくなった気がする。

これがあれば革命はしないけど魔神くらい切り伏せられるんじゃないかと本気で思えてしまう。

更にここには姫乃も居る訳で、つまりもう勝ったも同然という奴だ。

後の問題はただ一つ。


「姫乃。困ったことがあるんだ」

「えっと、なに?」

「起き上がりたくない」

「あ、あはは……」


胸の痛みも無くなった。

目の前には大切な彼女が俺の為に微笑んでくれている。

これ以上の幸せは世界のどこを探しても無いだろう。

ああそうか。

これが『好き』って感情なんだな。


「あれ……一会くん。どこか雰囲気変わった?」

「まあちょっとな。

気を失ってる間に見た夢で、俺の気持ちは俺のものなんだって教えられたんだ」


キヒトのシロノに対する『好き』とはまた違う感情。

そっちの『好き』は砕け散ってしまって、だからきっと俺の中にももうその感情は抱けないんだと無意識で抑圧していた。

でも俺が姫乃を想う『好き』は唯一無二のもので、無意識だろうと何だろうと止められるものじゃない。

むしろ自覚した今はこの想いが暴走しないようにする方が難しいかもしれないな。

俺は寝返りを打ちつつ目の前に見えた綺麗な足をそっと撫でた。


「っ!?!?」

「うわっ。ぶへっ」

「い、一会くん!」


急に立ち上がった姫乃に吹き飛ばされた俺は地面に沈んだ。

天国から地獄とはこの事か。

それを見た姫乃が慌てて俺を起こしてくれる。


「ごめんなさい。でも今のは流石に大胆過ぎると思うんです」

「うん、こっちこそごめん。調子に乗った」


今のは俺が悪い。頭撫でるのとは訳が違うもんな。

余りの極楽気分で結局暴走してしまった。

こうなったら時間を置いて頭を冷やす必要もあるし、ちょっと運動でもするか。


「十分休憩もしたし、サクッとやることやってリアルに戻ろうか」

「そ、そうですね!」


俺達はお互いに顔を赤くしつつ2人並んでさっきの魔物の大軍へと突撃していく。

夢の中ではキヒトの1歩後ろからシロノがサポートしていた。

こういう所でもキヒト達と違うんだなって再確認できた。



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