表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
158/208

158.やっぱり無事では無かったようです

手ごろな岩に並んで腰を下ろして一息つく一会くんはどこからともなくサンドウィッチを取り出すとガブリと齧り付きながら、もう一つ出して私に差し出しました。


「それで、朝って事はリアルだともう研修3日目なのか?」

「はい。本来なら昨夜のうちにログアウトするはずの一会くんが朝になってもまだログアウトしてなくて、所長や向井さんが強制ログアウトさせようとしても出来ないって困ってました」

「あーそりゃ悪い事をしたな。確かにログアウト通知は出てたんだけどな。

ちょっとやりたい事があって拒否してたんだ」


サンドウィッチを受け取って口にしつつ、一会くんの横顔をチラ見します。

珍しくどこか焦っているようにも見えるんですよね。

一体何がそんなに一会くんを駆り立てているのでしょうか。

でも何かするにしても一度出て所長達を安心させてからでも良い気がします。

特に一会くんはそういう周囲の人の迷惑になることってあまりしたがらない人だと思うし。


「それは一度ログアウトして入り直すんじゃダメなんですか?」

「ああ。多分だけど一度出るともう二度と戻って来れない気がする。

特に既に問題を起こしてるっていうなら、俺の個人的な都合でもう一度行かせてくれって頼んでも断られるだろう」

「それは確かに」


他の皆が普通に研修を続けてるところを見るに大事にはなっていない、正確にはしていないというべきですけど、それでも万が一にも一会くんの身に何かあったとなれば事件ですし、最悪研究がストップになったりするでしょう。


「距離的にはあとちょっとなんだ。

今が朝だってことならあの魔物の群れさえ突破出来れば昼前には辿り着けるはずだ」

「断念する選択肢はないんですね?」

「極力な。命懸けで何が何でも達成しないといけないかと聞かれたらそうじゃないと思う。

もしかしたら何の意味も無くてただの自己満足で終わるかもしれないし」


あ、これ絶対諦めない奴です。

キヒトも同じような事言って、結局かなり危ない橋を綱渡りしてましたから。

こういう所は一会くんも年相応の男子って事なんでしょうかね。

はぁ。仕方ないですね。

私だけ帰るなんて選択肢は私の中にはありません。

ならその一会くんのやりたい事をさっさと達成させて一緒に帰るだけです。

その為にもさっきから気になっている事を確認しましょう。


「ところで一会くん。武器はどうしたんですか?」

「あーそれな」


頭をぽりぽりと掻きつつ一会くんは短く「無い」と答えました。


「ない?」

「正確には砕け散った」

「ええっ」

「だから敵の武器を奪ってなんとか凌いでたんだ」


私の手元にあるメイから受け取った姫将軍の剣を確認しても昨日とさっきとで結構な数の魔物を切り倒してるのですが刃こぼれ1つありません。

一会くんだけ村人Aだからナマクラを掴まされたってことでしょうか。

有り得なくは無いですが、さっきの魔物は昨日私が倒したのと比べると圧倒的に強かったのに、それなのにまともな武器がないとかどこの無理ゲーなんでしょう。

それともう一つ気になっていることが。


「あのなぜさっきから私の方を見てくれないんですか?」

「いや、それはその、な」


ずっとそれとなくこちらから顔とそして身体を背けているんですよね。

まるで私の顔を見たくないかのように。

さっきも私が来たのを知って凄い驚いてましたし。

これは、何か隠してる?


「一会くん!」

「ちょ、まっ」

「!!?」


がばっと一会くんの肩を掴みつつ正面に回り込んだ私の目に映ったのはまるで地震が起きた後のアスファルトのようにひび割れた胸元と、そして私と目が合った瞬間に顔を真っ赤にしつつ胸を押さえて倒れ込む一会くんだったのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ