154.2人の将軍
みんなそれぞれやりたい事を見つけて活動していることを知りつつ、まだ一番知りたい情報が出てこない事に残念な気持ちになります。
でも仕方ないでしょうね。村人Aの動向なんて噂になるはずもないですから。
「あ、そうそう。
最近、西のクロッペ森林地帯で魔物が増えているそうですよ」
「は?」
「まあ姫様がそちらに向かわれることはまず無いとは思いますが」
クロッペ森林地帯。
これも夢の中にも出てきた場所です。
そして魔物が増えた原因はその森の奥で魔神復活を企む者たちが実験を行っていたからです。
「メイ、今は何年だったかしら」
「大陸歴1053年ですけど」
「そう。そうなのね」
何がどうしてそうなっているのかは分からないけど、私の知っている夢の中とどこまでも酷似しているらしい。
なら私のやるべき行動も決まってくる。
まずはそう。練兵場に行きましょう。
私がメイを引き連れて移動してみれば、そこでは騎士団長、いや聖さんの号令で一糸乱れぬ練兵を行っていました。
500人近い人が鎧を着こんで剣を振る様はなかなかに迫力がありますね。
私が来たことに気が付いた聖さんは、練兵をそのままに私の方に来てくれました。
「ようこそお越しくださいました。(えっと……姫様とお呼びすれば?)」
「(ええ、それで大丈夫です)」
恭しく礼を取りながら小声で私の役を確認する聖さん。
こういう気遣いは出来る人なんですね。
ただこの態度から分かる通り役を演じ続けるみたいです。
「それで姫様。このような場所に何かご用でもありましたか?」
「はい。実は東の山岳地帯で魔物が大量発生するという情報を手に入れました。
つきましては被害が出る前に騎士団に動いて頂きたいのですが私ではその命令権がありませんし、陛下に奏上しても女性の私が何か言っても無視される可能性が高くて困っているところです」
「それはなかなかに楽しそうなイベント。おっと失礼。重大な事件ですね。
分かりました。そう言う事でしたら私自らが陛下にお伝えし動く事にしましょう」
「よろしいのですか?」
「元々練兵を終えたら行軍もやりたいと思っていたんです。
だから渡りに船というものですよ」
「なるほど。ではよろしくお願いします」
どうやら聖さんは指揮官をやってみたかったんですね。
部下を指揮しつつ上司、この場合は私ですが、の依頼を受けて仕事を完遂する。
国主程の責任は負わないけど人の上に立つ優越感は味わえる。そんな感じでしょうか。
ともかく、これでこちらは大丈夫でしょう。
あとは。
「あの姫様?」
「なにかしら」
私達の会話が終わるまで静かに控えていたメイが私にそっと質問を投げかけてきます。
「魔物が増えているのは西の森ですよ?」
「そうね。でも西に異変があるなら東にもあるのではないかしら」
夢の中では実際にあった訳だし。
そっちでは対応が後手に回って東側の領地で大きな被害が出ていました。
それにもし夢の中と同じではなかったとしても、私達がこう動いたことを察知したAIが空気を読んでそういうイベントを追加してくれる可能性は十分あると思います。
いずれにしても無駄足にはならないでしょう。
「それと、西の森へは私が向かいます」
「ひ、姫様おひとりでですか!?
危険すぎます。それこそいずれかの騎士団に依頼すればよいのです」
「そうは言ってられない事情もあるのです。
でも確かに私一人では危険ね。黒騎士団あたりに護衛をお願いしたかったのだけどまだ戻ってはきてないかしら」
「黒騎士団の団長宛てでしたら姫様から直接『コンタクト』が取れるかと思います」
コンタクト?
あ、もしかしてユーザの専用機能でしょうか。
確かリアル時間をステータス画面から確認できる、みたいな説明もありましたし。
えっとこうだったでしょうか。よかった、行けそうです。
『む、これは。なるほど。姫様どうした』
「黒部先輩、いえ、黒騎士とお呼びすべきですね。
実は西の森に向かいたいのですが、魔物が出るから私一人では危険だと止められてしまいまして。
もし良かったら護衛を頼めないでしょうか」
『ふむ。承知した。では1時間後に王都西門前で合流しよう』
「はい、よろしくお願いします」
こういう時、黒部先輩は特に疑問を挟むことも無く承知してくれるのが助かります。
……よく考えれば一会くんも阿部くんや兵藤くんもそうですね。類は友を呼ぶというやつでしょうか。
「姫様。どうしても行かれるのですか?」
「ええ。メイには心配かけて申し訳ないですけど」
「私の事は良いのですが。
ではせめてこちらをお召しください」
そう言って差し出してきたのは剣を始めとした装備一式。
……一体何処から取り出したのかしら。
受け取ってみればキラリと光った後、一瞬で着替えが終わっていました。
これは、先日みんなでARをしに行った時の姫将軍の装備ですね。
一応2つの騎士団に対する扱いの違いに補足を入れておきますと、
第2聖騎士団は基本的に国から正式に要請を受けた時に出動するのに対し、
第6独立騎士団はその名の通り独自の判断で臨機応変に活動を行う騎士団で、災害などが発生した場合はいち早く駆け付ける部隊となっています。
聖と黒部先輩に対する信頼の差が出たと言っても過言では無いのですが。