151.めくるめく仮想空間へ
所長の案内により移動を開始する俺達。
幾つかの扉を潜っているので既に昨日立ち入り禁止区域だって言われていた場所なのは間違いないと思う。
「あの、俺達こっちの区画に入っても大丈夫なんですか?」
「安心せい。その為に昨夜のうちに必要な書類は出しておいた」
「はい。それにこの場合、罪に問われるとしても皆さんではなく皆さんを招き入れた私達です」
それもそうか。
これで捕まるんじゃ詐欺だよな。
廊下を歩く俺達とすれ違う所員の姿もちらほら見えるし、誰も何も言わないってことは俺達がこっちの区画に来ることは事前に通達されてたんだろう。
そうして連れて来られたのは、SF映画とかでありそうなカプセルベッドが5基ずつ3列並んでいる部屋だった。
「えっと、コールドスリープ室?」
「確か一昨年放映されたSF映画にそういうシーンあったけど、眠ってどうするの?」
「だよなぁ」
俺達の疑問に答えたのは当然、ここに連れてきた所長だ。
「ここに並んでいるのはこの研究所で開発した最新式フルダイブ型VRシステム『ARE-8』。通称アレヤだ。
今から君たちにはこのマシンを使って仮想空間へと旅立ってもらう。
行き先は異国情緒溢れるファンタジーな場所だ。
そこで自分の理想のロールを疑似体験してくるのが今日から明日にかけての研修内容となる。
VR空間内では体感時間がリアルとは異なるので気を付けてくれ。
ステータス画面にリアル時間が表示されているから時々確認すること。
あ、アラームをセットしておくことも出来るからな。念のため設定しておくことをお勧めする。
1回のダイブは最長8時間を目安にして欲しい。リアルボディが寝違えたりもするからな。
何か質問はあるか?」
「あの、ダイブした先では俺達は全員同じ街で活動するんですか?」
「いや、数組に分かれてもらう予定だ。流石に1つの国に王子が何人も居たらまずいだろ」
王族なら側室とか沢山抱えて子供も2桁居るっていうのもありだけど、研修の意図から考えれば同じ役の人は居ない方がいい。
まして同じ役で能力的に上位互換の人が居たりなんかしたら、悔しい思いだけして終わるって可能性もある。
他にも黒部先輩と聖もあだ名で言えば黒騎士と聖騎士だ。
同じ国の別の騎士団に居てもおかしくはないけど、字面からして対立してそうな気がする。
お互いをライバルと見なして切磋琢磨出来るなら良いんだけど、別にリアルではそんな様子は無いしな。
「よし、他に無いようであれば好きなマシンに乗り込んでくれ。
システムの起動方法については直感的に分かる様に設計はしたつもりだが、白石と向井がサポートして回るから分からなければ聞いてくれ」
「「はい」」
みんな、手近なマシン順次乗り込んでいく。
こういう時、男子の方がわくわくしているように見えるのはやっぱり機械好きなのが多いってことだな。
女子は数人おっかなびっくり内装の手触りをチェックしながら慎重に乗り込んでる。
よしじゃあ俺も乗り込むかな。と思ったところで袖を引かれた。
「村人A。君の乗り込むマシンはこっちだ」
「え?」
所長に引かれて何故か隣の部屋に俺だけ連れて来られた。
こっちの部屋にも同じようにカプセル型の装置が2つ設置されていた。
ただ、向うと違って塗装とかはされていないむき出し状態だ。
「あの、まさかとは思うのですが、これって昨日話してた開発中だか研究中だかの奴ですか?」
「おぉ察しが良いな。そうだ、現在開発中のARE-9だ。
なに安心したまえ。安全面のテストは全てクリアしている。
残りの問題はダイブ中のシナプスシンクロ率がどうしても期待値に届かないという事だけなんだ。
君ならもしかしたら我々がやった時とは違う結果を出してくれるんじゃないかと期待している」
「はぁ。念のため確認ですけど、危険はないんですよね?」
「ああ。どこぞの映画のようにデスゲーム状態になったりはしないから安心してほしい。
言ってしまえばちょっとリアル過ぎる夢みたいなものだ。
ダイブ中に怪我をしてもリアルに反映されることもないのは確認済みだし、ログアウトプロセスを起動すれば数秒で起きられるようになっている」
もし仮に少しでも危険なら向井さん辺りが止めに入ってくれると思うし大丈夫だろう。きっと。
俺はちょっとだけ不安を残しつつも指示された通りにマシンに乗り込み、検査用の端子を身体の数カ所にくっつけてから、眠る様にバーチャル空間へとダイブしていった。




