149.朝食はひとそれぞれ
研修2日目。
目覚ましのアラームに起こされた俺は顔を洗って食堂へ。
先に来ていた黒部先輩が俺を見て声を掛けてくれた。
「朝食はどうやらバイキング形式のようだな」
「あ、おはようございます。黒部先輩。昨夜は良く寝れました?」
「どこでも寝れるのが我の特技だからな」
てっきり枕が変わると寝つきが悪くなるタイプかと思ったけどそんなことは無かったようだ。
ちなみに食堂には俺達の他にここの所員の人もちらほらと居た。
まあ俺達で食堂貸し切りって訳にもいかないだろうしな。
その中でも見たことのある人と目が合った。
「おはようございます」
「おはようございます。昨日は災難でしたね」
「いえ、白衣さんが助けてくれて助かりました」
「白衣さんって。そう言えば名乗って無かったわね。白石よ」
そう、昨日所長に絡まれた時に助けてくれたお姉さんだ。
つい自分の中で白衣さんって呼ぶようになってたけど、本名は白石というらしい。
まあ今は普通の私服だし白衣さんはおかしいよな。
と思ったところで何やら背中に冷たいものが。
「ふぅん。一会くん、いつの間にそんな美人のお姉さんと知り合いになったんですか?」
「姫乃?!お、おはよう」
「はい、おはようございます」
俺の背後を取るとはやるな!
ではなくて顔は笑ってるのに何故か凄みを帯びている気がする。
「えっと、白石さんとは昨夜、大浴場に行く途中で道に迷ってた所を助けてもらったんだ」
「助けた……まぁそうですね。どちらかというとこちらがご迷惑をおかけしたような気もしますが」
ここで所長に捕まってたんだっていうと話がややこしくなるし、迷子になってたのも間違いじゃないからこれでいいだろう。
姫乃も元から怒ってる訳じゃなかったみたいですぐにいつもの状態に戻ってくれた。
だけど真打は後から来るらしい。
「お、そこにいるのは村人Aではないか」
そう声を掛けてきたのは所長だった。
昨日と服装も同じなら背丈も同じ、ってそれは当たり前か。
問題は彼女のことを知らない姫乃達からしたら俺達よりも小さい子供がこんなところに居るという驚きが先に来るだろうことは予想に難くない。
「一会くん。どこからこんな小さな子供を誘拐してきたの?」
「いやいやいや。彼女は立派なここの職員だから。そうですよね、白石さん」
「ええまぁ。ただ立派かどうかは何とも……」
気持ちは分からなくもないけどそこで言葉を濁さないで欲しい。
お陰であなたの所の所長がご機嫌ななめだから。
「なんだと白石のくせに~」
「はいはい。そういうのは一人で起きられるようになってから言いましょうね」
「起きれるし!今日だって目覚まし10個使って頑張って起きたし」
「普段3個じゃ起きないですものね」
「10個……」
ここの建物の防音はしっかりしてるから多分大丈夫だけど、一歩間違えれば近所迷惑だな。
みんなの呆れた視線を受けて分が悪いと悟ったのか所長は顔を赤くしながらそっぽを向いた。
「まあいい。それより、村人A。体調は万全だな?」
「え?ええ。健康そのものです」
「それは良かった。この後楽しみにしているぞ」
「この後?」
所長は言うだけ言って自分の朝食を取りに行ってしまった。
この後って言うと俺達は朝食を終えたら研修が待っているはずだけど。
向井さんからは9時に昨日の研修ルームに集合と言われてるし。
ま、どうなるのかは後になってみれば分かるか。
それよりも俺達も朝食だ。
それぞれ自由に取って来た朝食は、俺と姫乃はご飯に味噌汁に始まり純和風の朝ごはんだ。
対して光や天音、黒部先輩はパンとサラダにベーコンエッグと言った洋風になっている。
「聖はコーンフレークか」
「……悪いか?」
「いや。朝は食べないって人もいるし、それぞれだだろ」
知り合いには朝はプロテインだって人も居るし『王様はブランチだろ』とか言って10時くらいに食べる人も居る。その人、王様でも何でもなかったけど。どうやら気分らしい。
また1日3食になったのは近代以降だし、今でも1日2食って国や地域は珍しくない。
ただ本屋でそう言った書籍を探すと『朝食を食べなさい』って本の隣に『朝食は食べるな』って本があったりするので専門家の間でも意見は割れているようだ。
ともかく。
さっきのあの様子からして今日は一波乱ありそうだし、しっかり食べて備えておくに越したことはないな。
あと所長がパンケーキを3枚重ねてその上から蜂蜜とかを掛けているのを見てしまった。
何とも甘そうで同じテーブルに座ってる人たちがうわぁって顔をしてた。