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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
148/208

148.犬とモルモット

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

~~ 一会 Side ~~


光達が部屋を出ていった後、俺も風呂に入る為に部屋を出た。


「部屋に備え付けのシャワーでも良いけど、折角なら浴槽で足を伸ばしたいしな」


向井さんの説明によれば脱衣所にタオルなどは常備してあるので手ぶらで行けばいいらしい。

俺は今朝見せてもらった施設の案内図を思い出しながら地下通路を抜けて隣の建屋へと来ていた。


「……あれ、通路を抜けた後はどうだっけな」


確か右右下左、だっけ。いや下はおかしいような?

ま、間違えても立ち入り禁止区域は俺が持っている通行証じゃあ扉が開かないようになってるし、その場合は戻って別の道に行ってみれば良いだけだ。

無機質な白い廊下が続くのがまるでどこかの秘密基地に潜入しているような気分にしてくれる。

そうして幾つかの扉を越えつつ廊下を歩いていたら何やら奥からふらふらと歩いてくる少女の姿が見えた。

ふらふらしてるのは体調が悪いのではなく考え事をしてるせいみたいだ。

うちの学生で無いところを見ると、ここの研究員の子供かな。

今もなにかブツブツと呟きながらこっちに歩いてきている。

というかあれ、前が見えて無いんじゃないか?危ないなぁ。

俺はその子と交差する手前で横にスライドして彼女に道を譲った。


スッ

「!」


すると彼女の方でも俺を避けようとしたのか、流れるように俺の正面にスライドしてきた。ならば。


「よっ」

スッ

「とりゃ」

ススッ!


俺が今度こそ避けようと反対側にスライドすれば何故か彼女も狙ったように動いてくる。

多分狙ってやってるというより常日頃から無意識でも正面の物体を避ける習性があるんだろう。

なら避けなければいいのか。


ぽふっ

「……」


いざ避けずに止まってみれば、何故か俺の胸のなかに収まる少女。

その手が俺のお腹の辺りをペタペタと触り、顔を近付けたかと思えばクンクンと匂いを嗅ぎだした。

どうやら人型の犬だったみたいだ。そんな訳無いけど。


「ん、草の匂いがする。この匂い知らない……誰?」


ようやく顔を上げた少女の目が俺を捉えた。

それにしても匂いで人を判別するとかやっぱり犬っぽいな。

まぁともかく自己紹介はしておくか。

でないと突然少女を抱き付かせた変態のレッテルを貼られかねない。


「俺は村基むらき 一会ひとえだ。今日からの3日間、研修でお世話になってるんだ」

「研修?あぁ、そう言えばニュースが流れてたね。それより、むらびとえー?」

「あーうん。そんなあだ名でも呼ばれてるな」

「わたしは……」


その少女が名乗ろうとしたところで廊下の向こうから慌てて走ってきた白衣の女性が声を上げた。


「あ、所長!こんなところに居たんですね」

「所長?」

「そうなのだ。えっへん」


中学生くらいにしか見えないその少女は所長と呼ばれて胸を張った。……ぺったんこだけど。


「……なにかな?」

「いえ」

「まあいいや。

それより村人A。君のような人材を待っていた!」


そう言って俺の腕を取る所長。意外と握力強いな。

ってそれはともかく、これは一体どういう状況だ?

さあ行くぞと言わんばかりに腕を引く所長を押し留め、白衣の女性に説明をお願いする。


「すみません、うちの所長が。

実は今開発中のシステムで一部行き詰ってるみたいなんです。

特殊な感性の人物の脳波フィードバックが必要だとか言ってたのでその事だとは思うのですが」

「そういうことだ。さあ行くぞ」

「いや、行くぞと言われても俺はここの研究員でも何でもないのですけど。

それに研究に付き合うにしても色々と手続きが必要なんじゃないですか?」


多分、機密保持契約とか色々と面倒なものを書かされるはずだ。

他にも脳波フィードバックとか言ってるし、危険性は無いのかとかいった安全上の説明も無しに研究というか実験につき合わせられるのも問題がある気がする。

きっと所長(この子)は所謂研究脳でそういう契約関係は全部すっ飛ばしてしまうタイプだな。

だから研修には副所長の向井さんが来てた訳だ。

白衣さんの立場が研究員なのか所長の面倒を見る役なのかは分からないが。

って白衣さんが何故か俺の事を怪訝な目で見てる?


「ところであなたはどうやってここまで入って来たんですか?」

「え?普通に頂いた通行証で通ってきましたが」

「ちょっとお借りしても?」

「はい」


俺の持っている通行証を受け取って近くの扉にかざせば「ブブーッ」という音と赤いランプが数秒灯った。

どうやら通行を許可されなかったみたいだ。

ならばと通行証を返してもらい俺が同じ扉に通行証をかざすと「ピッ」と鳴って解錠されたっぽい。

なぜ?

俺だけでなく白衣さんも驚いてるし、所長だけはどこか納得気に頷いてるけど。


「所長。これはまさかマザーAIが?」

「うむ。彼を招待しているのだろう」


よく分からないけど、俺がスパイだったというもの以外の何らかの答えには行きついたようだ。

良かった。

一歩間違えれば逮捕されたり記憶を抹消するために電気椅子に座らされたり、ってそれはどこぞの映画か。

ただその代わりに俺の腕を掴む所長の力が強まった気がする。


「さあ私の嗅覚が間違いなかったことが証明された事だし早速彼には私の実験に付き合ってもらおう」

「ダメです!彼は学生で研修を受けに来ただけなんですからそんな時間はありません」

「そう言わずに。ちょっとだけでいいから」

「ちょっとだけでも先っぽだけでもダメなものはダメです」


ギリギリと睨み合いを続けるふたり。

そこへ救いの女神が舞い降りた。


「所長。何をされてるんですか?」

「おお、向井くん」

「副所長。所長を止めてください」


向井さんは所長を見て、その手が掴んでいる俺を見て、再び所長を見て、ため息をついた。

どうやらそれだけで今の状況が大体把握できたようだ。

つまり良くあることってことかな?


「所長。まずは彼の手を放してあげてください」

「いやしかしだな」

「じゃないと明日のおやつ抜きにしますよ!」

「わ、分かった。放す放す」


おやつに釣られてあっさり手を離したんだけど良いのか?

所長と言うからには見た目とは裏腹に俺より年上だと思うんだけどさ。

心配に思ったところで向井さんがすっと所長の耳元で囁いた。


「それに今無理しなくても……」

「おぉ、言われてみれば!

流石、越後屋の向井。頼りになる。

そうと決まれば早速準備に取り掛からねばな!」


言うが早いか素早く走り去っていく所長。

その後ろ姿にため息をつく向井さんの日頃の苦労がしのばれる。


「誰が越後屋ですか、まったく。

それと村基さんでしたよね?大浴場ならこの道を戻って突き当りを左です」

「あ、はい。ありがとうございます。

そっちの白衣のお姉さんも助けて頂きありがとうございました」


俺は向井さん達にお礼を言ってその場を後にした。

大浴場は貸し切り状態だったのと、多分所員の趣味なのかコーヒー牛乳やフルーツ牛乳の自販機が設置してあった。




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