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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
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147.お似合いのふたり

~~ 紅玉 光Side ~~


問題が浮き彫りになったところでこれ以上一会君本人に聞いても何も出てこないと思った僕たちはいったんその場を解散した。

それにしてもあの一会君がこんな傷を心に持っていたなんて驚きだ。

僕から見た一会君は、いつでも飄々としていてあらゆる問題をまるで散歩するように解決していく超人のようなひとだ。

そもそも問題の方が一会君に集まってくるという説もあるだけど。

普通に生活していてあそこまで身の回りに何かが起きるのって普通ではないと思う。


「でも」


これでようやく恩返しが出来るかもしれない。

小学生の時に翼ちゃんといつも一緒に居るせいでいじめに近い状態にあった僕たちを助けてくれたのも一会君だった。


『お前がバカでグズでノロマなのはどうでもいいけどな。

それで自分の大切な人が悲しんでるのを見て、そのままで良いと思ってるならお前はゴミだ。

さっさとゴミ収集車に回収された方がいい』


今思い返しても全く酷い事を言うものだと思う。

でもそのお陰で僕は変わる決意をして、実際に僕たちの生活は大きく改善した。

『紅の王子』なんて呼ばれるのも一会君のお陰で、もし彼が居なかったら『紅の弱虫』とかが良い処でしょう。

だけどそうして変われた僕だから分かる。

一会君のあれはきっと、一会君自身が乗り越えるべき壁なんだ。

僕たちが直接手を出せなくても、背中を押すくらいは出来るはず。

そう思っても僕一人で出来る事なんてたかが知れているので、ここは翼ちゃんの知恵も借りましょう。

ポケットに手を突っ込んで携帯を、ってしまった。電子機器類は全部没収されてるんだった。

これでは女子の個室に夜に行く訳にもいかないので連絡の取りようがない。

仕方なくお茶でも飲んで落ち着こうと食堂に行くと、そこにはなぜか翼ちゃんの姿があった。


「翼ちゃん。どうしてここに?」

「なんとなく。ここなら光くんに会えるかなって思って」


僕が隣の席に座るとそっとお茶を差し出されたのでお礼を言いつつ受け取り一口。

さて、思いがけず翼ちゃんに会えたのは嬉しいのだけど、彼女もなにやら悩みがある様子だ。

幸いそれくらいは分かるくらいには一緒に居るから。


「えっと、何かあった?」

「うん。さっきね。姫様に話を聞いてきたの。村基君のことで」


ああ、どうやら女子は女子で僕らと同じようなことをしてたみたいだ。

ということは内容も同じような感じかな。


「それで姫様はなんて?」

「村基君との関係を一歩進めたいとは思っているけど、そう思う時に限って村基君が辛そうにしてるからどうしていいのか分からないって」

「ああ、うん。そうだろうね」


僕はさっきの一会君の様子を翼ちゃんにも話した。

恐らく一会君は姫様から恋愛感情を向けられる度にあの発作とも言える状態になって居たんだと思う。

それは彼自身の姫様に対する思いと重なって身動きが取れなくなるくらい彼を締め付けていた事だろう。


「このままじゃ両想いなのに結ばれないってこと?そんなの悲しすぎるよ」

「そうだね。何か僕らで力になれることがあれば良いんだけど」

「うん。あ、でも」

「?」


翼ちゃんは一度言葉を区切ると思い出したようにどこか楽しそうに言うのだった。


「姫様は私達が思っているよりずっと強いのかもしれないよ」

「どうして?」

「だって、どうしていいか分からないって言った後にこう言ってたの。

『一会くんの問題なら自分で解決するまで待ってた方がいいかなとも思ったんですけど、今日の研修でも言ってましたよね。未来の自分がどうなっているのか決めるんだって。

だから私は彼を信じて全力でその背中を蹴り飛ばします』って」

「それはまた過激だね」


蹴り飛ばす、か。

お淑やかな姫様からはイメージできないけど、そもそも姫様=お淑やかと考えただけで彼女がそんな型に嵌った存在かと言えばそうではないだろうと思う。

なにせあの一会君を好きになれるのだから。


「でも一会君ならそれで良い気もするね」

「だよね。だから私達はそっと見守りつつ、想定外の脱線をしそうなときだけフォローすれば良いと思うの」


出来る事が無いというのは残念な気もするけど、翼ちゃんがそう言うならそうなのだと思う。

少なくとも彼女の方が僕よりもそう言った機微には聡いのは分かりきっているし。

これで一会君についての話は終わりということで翼ちゃんはポンと手を合わせた。


「さ、折角こうして集まれたんだし、一緒に宿題しよっ」

「そうだね。それにしても欲しいものかぁ」


気分を一新する為にもここはちょっとボケた方が良いかなと思いつつ翼ちゃんをチラッと見ると、彼女も似たような事を考えているのかにっこりと笑って僕に問いかけてきました。


「男の子と女の子だったらどっちかな」

「女の子かな。って僕のボケを先取りされた」

「ふふっ。私達息ピッタリだね」


ふたりで笑い合いつつ、僕たちは結婚式は神前が良いか教会が良いか、子供は何人欲しいかなんて事を話し合った。

ちょっと気が早い気もするけど。



今年1年ありがとうございました。

反省すべき点は多くあるものの何とか無事に毎日更新で走り抜ける事が出来ました。

来年も笑いと涙と感動をお届けできるように鋭意執筆して参りますのでどうぞよろしくお願い致します。

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