146.無意識の拒絶
夕食が終われば自由時間になるわけだが。
「なんで俺の部屋に集まってるんだ?」
それぞれ個室が割り当てられている筈なのに、黒部先輩に光、聖が俺の部屋に来ていた。
一人部屋に4人はかなり狭い。
椅子も1つしかないので仕方なくベッドの上に3人。一応の配慮として枕近くに部屋の主である俺が座った。
「合宿の夜と言うのはそういうものだ」
「大部屋だったら楽だったんですけどね」
「親睦会だと思えば良いんじゃないか?」
「まぁ良いけど」
出された宿題もそれほど難しくはないし、まだ20時を回った所で寝るにも早いしな。
「で、何か話があるのか?」
「ああ。最近のお前の」
「合宿で夜に男子だけで集まるっていったら猥談に決まってるだろ」
「あ、いや……」
黒部先輩が何か言いかけたところに聖がズバッと言ってのけた。
確かに定番ではあるけど、それは修学旅行ではないだろうか。
まぁ良いんだけど。
「問題はネタを持ってそうなのが光くらいしか居ないってことだな」
ハルが居たら魚沼さんとの話も聞けそうだけど、ここには居ないし。
聖がどうかは知らないが黒部先輩はまず間違いなく色恋沙汰とは無縁だと思う。
「いやいやいや」
「あ、もしかして聖も彼女居たのか」
「俺じゃねえよ。お前だお前」
「ん?」
「そこで首を傾げるな。
姫様とはどこまで進んでるんだって聞いてるんだ」
さも当たり前といった感じで聞いてくるが、前提がおかしいと思う。
「いや、俺は姫乃と付き合っては居ないぞ」
「でもスキなんだろう?」
すき?隙か、いや鋤という可能性もあるか。
「いやだからそこで首を傾げるな。
どこからどう見てもお前が姫様の事がスキなのは丸分かりだ。
今更俺達に隠す必要もとぼける理由も無いだろう」
「んん?」
何を言ってるんだ?
俺は胸の痛みを抑え込みながら聖の言葉に耳を傾ける。
その様子を隣で見ていた光が慌てて聖を止めた。
「ちょっと待って」
「なんだ、王子。お前も庇うのか?」
「じゃなくておかしいんだ」
「いやだからこんなに白を切るのはおかしいと」
「だからそうじゃないよ!
一会君がここまで知らないふりをするのがおかしいと言ってるんだ。
一会君は答えられない事ははっきりと『言えない』っていう人だよ」
必死に俺の事を庇ってくれる光に有難いものを感じつつ、どこか他人の話をしているような違和感を覚えていた。
光はじっと俺の事を見た後、確かめるように聞いてきた。
「一会君。今からする僕の質問に答えてくれるかい?」
「ああ」
「一会君は僕と翼ちゃんが付き合ってるのは知ってるよね?」
「勿論だ」
2人が小学校に入る前からの幼馴染で学園に入ってすぐに付き合ってるのは知っている。
小学生っていうのは男子と女子が仲良くしてると周囲からちょっかいを掛けられるものだからな。
そのせいであれこれ世話を焼いたことがある。
学園に入ってからはクラスも違うし付き合いたての2人をそっとしておこうと思って用が無ければ声を掛けないようにしていた。
「僕は翼ちゃんの事が好きだよ」
「だろうな」
そうじゃなかったら付き合わないだろうし。
なぜそんな当たり前のことを?
「春明君と魚沼さんが付き合うきっかけも一会君だったって聞いているけど本当?」
「まあな。どう見てもハルが魚沼さんに一目惚れしてたのはハッキリしてたし、魚沼さんも自分を助けてくれたハルのことを救世主、いや自分だけの王子様って感じで見てたからな」
またもや分かりきった事を聞いてくる光だった。
だけど本題はここからだった。
「じゃあ一会君は藤白さんのことはスキ?」
「え?」
「藤白さんは一会君の事をスキだと思う?」
「ん?」
まただ。ノイズが掛かったように光の言葉の意味が分からない。
そんな俺の様子を見て光は何かを悟ったように頷いた。
「やっぱり。でもそうなると最近の一会君の行動が一つ分からなくて。
一会君って時々藤白さんの頭を撫でてますよね。あれは何なんですか?」
「何って言われると。まあなんだ。
小さい頃に一緒に遊んでた子があんな感じで頭をなでてやると機嫌が良くなったんだよ。
で、試しに姫乃にやってみたらやっぱり凄く機嫌がよくなったからな」
「「あ、あぁ」」
「それ。藤白さんに言ったら絶対機嫌が悪くなるから言わない方が良いですよ」
なぜか聖と黒部先輩が呆れたというか愕然とした顔をしてる。
光は光でここにはいない姫乃に同情の念を送ってるような。
そんなに変な事を言っただろうか。
「だけどこれではっきりしましたね。
一会君は原因は分かりませんが、自分の恋愛に関してだけ無意識レベルで拒絶しているんです」
「なんだそれ」
「つまり何か?これまでの姫様に対する行動は恋愛感情以外の何かで、最近目立つ挙動不審はようやく恋愛感情が芽生えて来た結果だということか?」
「恐らくそういう事なんだと思います」
「また随分難儀な話だな」
3人で頭を抱えて考え込んでしまった。
どうやら原因は俺にあるようなのでよく分かって無くて申し訳ない。