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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
140/208

140.突き刺さる想い

~ 村基Side ~


大事な話があるからと呼び出されて付いていった先に居たのは、たしか瑞樹さんっていう1つ上の先輩だ。

呼び出した女子、綾香先輩だっけ、と一緒に3人でお茶して以来だな。

あの時は以前、夏休み明けて直ぐの頃に不良に絡まれた時に助けにはいったんだけど、そのお礼がしたいからって理由でお茶をご馳走になったんだった。

でもお礼ならあれで十分ってちゃんと伝えたはずなんだけど、まだ何かあっただろうか。


「えっと、瑞樹先輩。何か大事な話があるって聞いてきたんですけど」

「そのえっと、うん。そうなんだけどね」


どうしたんだろう。

お茶の時はもっと快活な話し方をしてる人だったけど、なぜか緊張してるみたいだな。

なら少し雑談を交えてリラックスしてもらうべきか。


「ところで先輩は今回の試験はどうでした?」

「試験!?あ、そうね。試験はまぁいつも通り、かな。

と言ってもそんなに頭良くないから大体平均点くらいなんだけどね。

そういう村基君は?」

「俺の方は前回よりちょっと低めです」

「え、そうなんだ。何かあったの?」

「まあ色々と」


原因不明の胸の痛みに悩んでた、なんて言っても困らせるだけだしな。

ただこうして話をしたお陰で最初のガチガチの状態からは抜け出せたみたいだ。


「あの、村基君はまだ姫様と付き合ってる訳じゃないんだよね?」

「そうですね」


瑞樹先輩も同じ事を聞いてきたんだけど、最近その質問をするのが流行ってるんだろうか。

しかも聞いた後に安心したり喜んだりしてるけど。

あ、もしかして姫乃と付き合いたいんだけど、その前に近くをうろうろしている村人Aを何とかしたいとかそういう話だろうか。

個人的に百合に対して思うところはないのでどうぞご自由にという感じなんだけど。


「ねぇ、村基君と私が初めて会ったのがいつか覚えてる?」

「2学期始まって直ぐのあの時ですか?

それなら先日お茶をご馳走して貰ったばかりですし覚えてますよ」

「言っても私が伝えるまで忘れてたよね」

「ま、まぁ」


先輩が呆れた目を向けてくる。

いやだって、ちょいちょい似たような事があるし。

電車で痴漢に遭っただの、犬に吠えたてられただの、スリにひったくりに果てはボヤ騒ぎまで。

この街って治安が良いようでそうでもないからな。

姫乃にそれを伝えたら『そんなの一会くんのまわりだけ』とジトられたけど。

ちなみにハル達は当然という感じで頷いてた。


「えっと、それを聞くってことはもしかしてその前から会ってました?」

「うん。夏休み前にもひったくりから助けてもらったし、もっと言うとGW明けから週1で会いに行ってるんだけどなぁ。キヒト様に」

「あ~、うん。そこはオフレコでお願いします」

「だと思った。安心して。誰にも言ってないから」


まさか身バレしてるとは思わなかった。

もちろん瑞樹先輩がバイト先に何度も来てくれて毎回(キヒト)を指名してくれているのは分かっていた。

でもバイト中に知り得た情報はバイトの外では一切出さないようにしてたから今の俺は知らない事にしていたからノーカンなんだ。


「それと実を言うと初めて出会ったのは去年なんだけど、それも忘れてるでしょ。

一方的に助けておいて、お礼も碌に言わせずに去って行っちゃうんだもの。

取り残されて悶々とした気持ちを抱え続けることになった私の身にもなって欲しいわ」

「うっ、すみません」


先輩は怒っているというより拗ねている感じでフンっと鼻を鳴らしている。

俺の方は先輩の言う通り全然覚えてないし、助けた人の気持ちなんて全然考えてなかったからただただ頭を下げるばかりだ。

てっきり「助かって良かったね」で終わりだと勝手に思ってしまってたな。

実際にはそうでもなかったんだ。今度から気を付けないと。


「ま、そんな感じで村基君からしたら先日知り合ったばかりの先輩かもしれないけど、私からしたら1年以上前からずっと温め続けてきた訳なのよ。

私から見た村基君は、時に私のピンチの時には颯爽と現れて助けてくれるヒーローで、時に超絶イケメンで心遣いマックスの紳士で、それなのにプライベートで話をしてみるとちょっと抜けてる男の子で。

なんかもう私の恋心は射抜かれてしまった訳なのよ」

「こい、ごころ?」


あはははーと照れて笑う先輩に対して俺にはそんな余裕は無かった。

先輩の言葉じゃないけどまさに胸を射抜くような痛みが走り、脂汗が流れる。


「っ!? ど、どうしたの!!」

「いえ、なんでも」

「何でもなくないよ。顔真っ青じゃん。救急車呼ぶ??」


俺の異変に慌てて駆け寄ってくれる先輩。

ただ幸いにも痛みはすぐに納まってくれた。


「大丈夫です。

……ふぅ。もう収まりましたから」

「そ、そう?」


安心させようと笑顔を向けても、先輩はなおも心配そうだけど仕方ないか。

目の前でさっきまで元気だった人が急に青褪めて脂汗流し出したんだから。

ただお陰様でこの痛みの原因がちょっとだけ分かった気がする。


「先輩」

「な、なに?」

「先輩の気持ちは凄く嬉しいのですけど、今の俺にはそれを受け止める余裕はないみたいです」

「それは今の発作と何か関係があるの?」


先輩の質問に俺は小さく頷いた。

多分最近の姫乃を見た時にも感じるこの痛みの原因は、俺の心の一部が砕け散る程に壊れているってことなんだと思う。



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